チーズを作ればホエイが副産物として得られます。昔はホエイをそのまま捨てたり、豚に飲ませたりしていました。やがて、環境汚染防止のために、ホエイを捨てずに利用するようになり、リコッタやブラウンチーズ、さらに、ホエイ飲料なども作られるようになりました(本コラム 2023年12月20日)。大工場ではチーズの副産物として得られたホエイは、濃縮後噴霧乾燥してホエイ粉となり、アイスクリームや菓子などの副原料あるいは増量剤として利用されるようになりました。近年では脱塩、膜利用、樹脂利用技術が進歩し様々なホエイ製品が製造されています。しかしながら、濃縮・乾燥設備を導入することができない中小工場においては、依然としてホエイの処理・利用は頭の痛い課題です。
ところが最近世界的には「ホエイプロテイン」の需要が急増しているそうです。ちなみに2025年度のホエイプロテイン需要は135憶8000万US$(約2兆2千億円)で、日本では3億2920万US$(約527憶円)に達しているそうです。ここで出てくる「ホエイプロテイン」とはWPC、WPIや、これらをたんぱく質分解酵素で加水分解したもののことです(図1)。

WPC(whey protein concentrates ホエイたんぱく質濃縮物)はホエイを限外濾過膜で濃縮したものですから、乳糖やミネラルなど低分子が排除されます。低分子の排除レベルによってたんぱく質濃度が34%程度のものや75%程度のものまでいろいろあり、用途に応じて選ぶことができます。WPI(whey protein isolates ホエイたんぱく質分離物)はたんぱく質濃度が85%以上になります。これらを酵素で分解したものがホエイたんぱく質分解物です。
これらホエイプロテインの用途は表に示すように、世界的にはスポーツ関連食品、栄養食品などに使われています。世界のホエイプロテイン消費量の約35%を北米が占め、次いでヨーロッパが28%、アジア太平洋地域が15%のシェアで世界的に急成長しています。日本ではスポーツ用の他に、栄養食品にも使われています。

このように様々な分野で利用されるのは、ホエイたんぱく質の栄養特性が食品たんぱく質の中で最も優れているためです。男女ともにいわゆる“マッチョ”を目指す方々は日常的な筋トレとホエイたんぱく質の摂取を欠かせません。ホエイたんぱく質には分岐鎖アミノ酸(Leu, Ile, Val)含量が高く、分岐鎖アミノ酸は筋肉たんぱく質の約40%を占めており、特にLeuは筋肉合成に関与する重要なアミノ酸です。なので、スポーツの後にホエイたんぱく質を摂取することが重要と考えられています。
すぐれたアミノ酸組成であるばかりでなく、様々な健康機能を有する微量たんぱく質が何種類も含まれています。骨密度を高める働きのある乳塩基性たんぱく質(MBP)、免疫機能調整に役立つラクトフェリン、有害菌に対して抗菌作用のあるラクトパーオキシダーゼ、など100種類以上の微量たんぱく質が含まれています。但し、これら微量たんぱく質の多くは加熱すると機能を失います。なので、加熱乾燥ではなく凍結乾燥したホエイプロテインの方が望ましいです。
乳児用調整粉乳は母乳の組成に近似させる配合となっています。母乳はカゼインよりもホエイたんぱく質が多く、乳糖も牛乳より多いことから、WPCやホエイ粉が使われ、脂肪やミネラルを母乳に合わせています。ただ、母乳中のカルシウムは牛乳より少ないので、ここで使われるWPCは脱塩処理を行った脱塩WPCを使います。日本では出生数が低下しているので、この分野でのWPCの需要は低下傾向と思われます。
日本で使われているホエイプロテインの多くは輸入品です。しかし、昨今のように円安が進んでくると国産品も太刀打ちできるようになるかもしれません。最近、新聞ニュースによれば雪印メグミルクが中標津工場のチーズ生産量を増加させる計画だそうです。チーズ生産を増やせばホエイも増産されます。ホエイプロテインの需要の一部を担うようになればいいですね。
「乳科学 マルド博士のミルク語り」は毎月20日に更新しています。
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