Instagram  Instagram

English

乳科学 マルド博士のミルク語り

A2ミルクを原料としたチーズ製造

2015年3月20日掲載

A2ミルクについては2024年4月20日の当コラム「A2ミルク」で紹介したように、β-カゼインの遺伝変異体の一つで、アミノ酸配列の左端(1番目)から数えて67番目にあるアミノ酸が、A1ではヒスチジン(His)であるのに対し、A2ではプロリン(Pro)となっている違いがあります。多くのたんぱく質分解酵素はProを切断できないため、β-カゼインのA1型とA2型では切れ方が異なります(注、プロリンはアミノ酸の一種として取り扱われますが、正確にはアミノ酸ではなくイミノ酸です。通常のたんぱく質分解酵素はイミノ酸を認識できないため、切れ方が異なるのです)。そのため、A2型は乳糖不耐症の方や牛乳を飲むとお腹の調子が悪くなるという方の症状が緩和されるというメリットがあると言われています。一方、A2ミルクからチーズを製造すると歩留が低いという欠点も報告されています。これについては、日本獣医生命科学大学の佐藤薫教授も同様の結果を得て、酪農科学シンポジウムにて発表されています。歩留については詳しく調べた論文があります(Vigolo et al, J.Dairy Sci. 106:52755287,2023)。今回はこの論文を中心に解説します。

この論文では、ホルスタインの中からβ-カゼインの遺伝変異体を調べ、A1型のミルクとA2型ミルクに分けます。この乳を用いて6回のチーズ製造を行いました。各6Lのミルクを40°Cに加熱し、ストレプトコッカス サーモフィラスとラクトバチルス ブルガリカスを加え、10分後に牛レンネットを加えました。39℃にて10分間放置した後に凝乳をカッティングしました。次いで150gの塩を加え10分間ゆっくり撹拌しました。さらに10分間放置してホエイを分離させた後、カードをモールドに移し、50mLのホエイを採取し冷蔵しました。カードは7日間4℃の熟成庫に入れ保存しました。カードは1、48、168時間保管後分析に供しました。

まず、A1ミルクとA2ミルクのたんぱく質組成ですが、表1に示すように、全カゼイン、αS1-カゼイン(以後、カゼインをCNと略します)、αS2-CN、β-CN、およびκ-CNの全てでA2ミルクが少なくなっています。但し、αS1-CNには両者に統計的有意差はありません。一方、ホエイたんぱく質はA2ミルクの方が多くなっています。A2ミルクはカゼイン量が少ないので、チーズも少なくなる可能性が考えられます。

そこで、チーズの歩留を測定した結果、A2ミルクの方がチーズの歩留も有意に少なくなっていました(表2)。しかし、チーズの一般成分については両者とも同じような含量で大差ありませんでした。A2ミルクでは何故チーズの歩留が低くなるのでしょうか。

まず、A2ミルクのカゼイン量がA1ミルクのそれより低いことが挙げられます。さらに、先行論文から、A2ミルクにおけるβ-CNは疎水性が低く、CaやPが少ないことからミセル径が大きくなることが報告されています。A2ミルクのβ-CNはN末端から67番目にProが存在することで、ポリ-L-プロリン構造という特別な二次構造をとりやすく、そのためミセル径が大きくなると考えています。詳しいことは分かりませんが、2026年1月20日の当コラムたんぱく質の等電点」でご説明したように、たんぱく質が水中で安定か、不安定で凝固しやすいかは、たんぱく質表面が親水的か疎水的かということが要因の一つです。
A2ミルクの場合、カゼインミセルの疎水性が低いので、A1ミルクのカゼインミセルより水中での安定性が高い傾向にあり、それ故にカードの生成が少なくなると考えられます。さらに、A2ミルクのβ-CNとκ-CNがA1ミルクより少なく、ミセルサイズが大きくなる傾向です。ミセルサイズが大きいということはミセルの親水性が高いためで、沈降しにくいと考えられます。