クリスマスには絵本をプレゼントする方も多いと思います。ヒツジの絵本は、家畜小屋でイエスが生誕したという伝説や、神と人びとの関係を例えた「迷える仔ヒツジ」言説から、キリスト教関連のものも多く見られます。その他、眠れぬ夜にヒツジを数えるという話題もよく絵本やイラストになっています。ヒツジは人類にとって重要な家畜ですが、絵本の世界でも特別な動物といえるでしょう。
すでに紹介した「まりーちゃん」シリーズ(フランソワーズ作)もロングセラーです。
『ひつじのリンジー』ターシャ・テューダー作 内藤里永子訳 メディアファクトリー 2002、食野雅子訳 河出書房新社 2024
ターシャ・テューダー(1915-2008)は、アメリカの絵本作家・挿絵画家です。ニューイングランド地方の自然に囲まれた農場での暮らしを多くの絵本に著しました。
開拓時代さながらの田舎暮らしは、1980年代におこった「スローライフ運動」もあってか、アメリカのみならず世界で人気を博し、写真集や生活スタイルを紹介する本も多く出版されました。日本でもNHKのドキュメンタリーが放映され、展覧会も開かれています。
リンジーは哺乳瓶で育てられている仔ヒツジです。自分をヒツジだと思っておらず、家族にかまってほしくていたずらばかりします。でも、最後にはお母さんヒツジになった姿が見られ、きちんと家畜としてしつけられたことがわかって安心します。農場の女の子シルヴィーアンとともに、まさに「アメリカン・カントリー」といった風情で描かれています。
『しりたがりのこひつじ』エリック・カール絵 アーノルド・サンドガード文 工藤直子訳 偕成社 1992
『はらぺこあおむし』でおなじみの世界的な絵本作家、エリック・カール(1929-2021)のコラージュ絵がすばらしい作品です。
好奇心旺盛なこひつじは、ちょうちょを質問攻めにします。南に向かうというチョウは自由でかっこよく思えましたが、じつは厳しい世界に生きていることを理解していきます。
作者のサンドガードは、渡り鳥と同じように長距離の季節移動をするチョウに関心があったそうです。北米で見られるのはメキシコからカナダまで飛ぶというチョウ、「オオカバマダラ」でしょう。
このチョウ、羽化した『はらぺこあおむし』と形は違えど色柄はよく似ています。『はらぺこあおむし』は特定のチョウをモデルにしたものではないといいますが、両作品にはつながりがあるのかもしれない…と考えたくなってきます。
『ブルッキーのひつじ』M・B・ゴフスタイン作 谷川俊太郎訳 ジー・シー・プレス 1989
作者のマリリン・ブルック・ゴフスタイン(1940-2017)は子どもから大人まで幅広く人気のある絵本作家です。1980年代からは水彩画も多くなったそうですが、この作品は1967年に発表された活動初期のもので、シンプルな線画で描かれています。
ブルッキーはこひつじが大好き。愛情が1枚1枚の簡潔な絵から伝わってきて、読者はブルッキーを自分に重ねて大切な人のことを想うことでしょう。耳の後ろをかいてあげるとき、こひつじの気持ちよさそうな顔にうれしくなります。
牧場で小さな仔ヒツジや仔ヤギを見ると、とてもかわいくて連れて帰りたくなりますね。でもすぐに大きくなり、メスは1~3歳での初産が一般的です。こうして牧場で毎年仔が生まれることがいいと思うのです。それに比べヒトの子どもはゆっくり成長するということも、またよし。ちいさい子には絵本を読んであげてください。
