乳科学 マルド博士のミルク語り

植物性食品だからヘルシー ??

2018年7月20日掲載

植物性食品だからヘルシー ??

TVで食レポをしているタレントが「植物性だからヘルシーですよね」と言っていますが、私には植物性だと何故ヘルシーなのかよく分かりません。恐らく戦後、日本人の食生活が欧米化し、米や油脂の摂取量が減り、肉や乳の摂取量が増加(図1参照)したことに対する揺り戻しと、動物性脂肪に多い飽和脂肪酸悪者説が語られたせいではないかと想像しています。

確かに、食事摂取基準2015には飽和脂肪酸の摂取量が多いと心筋梗塞になりやすいと書いてあります。しかし、最近の研究結果では飽和脂肪酸摂取量と心疾患は無関係という報告が増えています。さらに、日本人を対象にした大規模調査では乳製品の飽和脂肪酸は心疾患のリスクをむしろ減らすことが報告され、食事摂取基準2015にも記載されています。
一方、植物性油脂であってもヤシ油には飽和脂肪酸が沢山含まれています。また、植物油脂に多い不飽和脂肪酸の一種であるリノール酸を摂り過ぎると心筋梗塞になりやすいことも知られています。このように、動物性油脂も植物性油脂も摂り過ぎが問題なのであって、植物性だからヘルシーとは限らないのです。また、たんぱく質の栄養価の一種であるアミノ酸スコアを比べてみると、植物性たんぱく質の中では最も優れた大豆たんぱく質でも、乳や卵の8割程度です。
しかしながら、「植物性=ヘルシー」というイメージはすっかり定着しています。なので、植物性〇〇と訴求し、ヘルシーをイメージさせる商品が増えています。中でも、「植物性乳酸菌」を訴求した商品はマーケティング的には大成功しましたが、その一方科学分野では物議を起こしました。
そもそも乳酸菌は動物でも植物でもなく細菌の一種です。たまたま最初に単離された起源が植物だったというだけで、消費者にとんでもない誤解を植え付けてしまいました。
「ヘルシー」をウリにした大豆を主原料とした様々な乳製品が市販されています。豆乳に植物油脂、合成甘味料、安定剤、乳化剤などを加えてフリーザーを通して製造したアイスクリームもどきが販売されています。どこがヘルシーなのか分かりませんが、乳アレルギーの方でも召し上がることができる点では朗報です。同様に、豆乳を使ったヨーグルトもどきもあります。さらには、大豆チーズなども販売されているようです。市販されているものは特殊な方法で製造した大豆たんぱく質から作られたクリームチーズ様のカードです。

「大豆チーズ」は1960年代に研究開発がスタートし、元都立立川短大(現在は改組されて首都大学東京の一部)の松岡博厚先生が論文を発表されています(日本食品工業学会誌 15: 103-108, 1968)。「組織や色は製品として好ましいものではなかった」と書いてあります。最近の論文(西山ら、日本食品科学工学会誌 60: 480-489, 2013)では図2に示す調製法で白かびチーズおよび青かびチーズを調製し、官能評価を実施しています。総合評価は5点満点中3点であり、決しておいしいものではなかったようですが、高い抗酸化活性を示したと書いてあります。
してみると、「ヘルシー ≠ おいしい」なのかというと必ずしもそうではありません。「ヘルシー = おいしい」の代表がチーズ(乳を原料とした本物の)なのです。但し、何事も“過ぎたるは猶及ばざるがごとし”ですぞ。