世界のチーズぶらり旅

ロレーヌからアルザスへの美食街道(2)

2018年7月1日掲載

ロレーヌからアルザスへの美食街道(2)

美しいストラスブールの町

アルザス地方を最初に訪れたのは、日本に第一次ワインブームが訪れた時だから、随分と古い話になる。当時の日本ではフランス産の渋いワインを飲む人は通を自任する少数の人達であって、一般人はすっきりと優しいドイツワインを好んだ。当時駆け出しのワインのライターだった筆者は、まずは、ライン河沿いのドイツのワイン地帯を歩き、それから列車でライン川を渡り、フランス北東部最大の町ストラスブールに宿をとった。翌日はアルザスのワイン地帯を歩き回り、昼食には調べておいたコルマールという町の名店といわれる古いレストランでアルザスワインを飲みながら、フォワ・グラのテリーヌとシュー・クルートを食べようと決め、予約なしで店に飛び込んだのだが、当然の事ながら大いにもめた事を今も思い出す。結局無理を聞いてもらったのだが、機関車のような腰回りのマダムがプリプリしながら持ってきた、お目当ての2つの料理の味は全くおぼえていない。

食べ応えのあるシュー・クルート

その後ずいぶん経ってから今度はマンステル・チーズの取材でアルザスを訪れ、カメラマンと共にヴォージュ山中でチーズを作るマダムを取材。その後町に出て、小さいながら名店といわれる店でフォワ・グラのテリーヌを食べ、フォワ・グラの本当の旨さを知ったのであった。余談だがフランスにはフォワ・グラの産地は2つあり、その一つがアルザスである。そして、ここには18世紀に当時の地方長官のお抱え料理人が考案したストラスブール風フォワ・グラのパイ包焼きという名物料理があるが、まだお目に掛かっていない。
余談ついでにフォワ・グラとは何か。Foieは肝臓で、grasには太った、脂肪質の、などの意味があるが、要するに、これはガチョウかアヒルに強制的に大量の餌を飲み込ませて肥大させた肝臓の事で、商品にはOie(ガチョウ)の肝臓なのか、Canard(アヒル)のものなのかが書かれている。世界にはこの強制投餌を動物虐待と批判する国も多いが、ともかくフランス人はフォワ・グラが大好きなのだ。しかし日本人はといえば割合冷淡である。

アヒルのフォワ・グラ

アルザス地方の名物料理といえば、カエルの料理もあるが、何といってもドイツ料理の血を引くシュー・クルートであろう。ドイツではザウワー・クラウトという。まず、細切りにしたキャベツを塩漬けにして発酵させる。そして、この酸っぱくなったキャベツを塩豚やベーコン、ハム、ソーセージなどと一緒に煮込む。総菜っぽくてボリュームたっぷりなので、気楽に食べられるのがいい。時々食べたくなると、輸入物のビン詰めのキャベツを買ってきて作ってみるが、日本の市販の豚肉製品はどれも味が画一的で不満が残る。

農家の主婦が作るチーズ

さて、ここらでチーズの話を書かなければ叱られそうだ。アルザスのチーズで、日本で知られているものといえば、マンステルくらいだろうか。エリアが狭いのでチーズの種類も少ないのは当然だが、地元で消費されるチーズはけっこう作られている。前出のヴォージュ山脈の尾根筋の牧場でその家の主婦が作るマンステルの工房を訪れたとき、そこではA.O.P.のマンステルの他に、ハーブやスパイスをまぶしたフレッシュチーズやセミハード系のバリカスというこの地方特有のチーズもつくっていて、彼女は土曜日になるとマンステルの町に降りて、朝市の屋台で客とおしゃべりしながら自作のチーズを売るのである。

バリカスというチーズ