フロマGのチーズときどき食文化

本物のカマンベールって何だろう。

2018年3月15日掲載

本物のカマンベールって何だろう

本物のカマンベールのパッケージ

今どきの日本でカマンベールを知らない人は少ないでしょう。日本でもたくさん作られていますから、ほとんどの人が食べたことがあるでしょう。でも、本物のカマンベールを知っていますかと問えば、大方は、本物ってフランものでしょうと答えますが、そう簡単な話ではないのです。そこで今回は本物のカマンベールとは何かを探ってみましょう。まずは最初の写真をご覧ください。これが厳しい規制をクリアし、ノルマンディー地方の定められたエリアで作られたカマンベールのパッケージです。
最も大切なのは真ん中に書かれている「CAMEMBERT DE NORMANDIE」の文字ですが、上記のような厳正な規制に則って造られ、審査に合格したものだけに与えられる名称なのです。そして右の丸いマークはEUが定める品質認証マークで、これも本物を知る手がかりになります。下のAu Lait Cruの文字は無殺菌乳使用という意味です。

カマンベール誕生の村

カマンベール・チーズはその名の通り、1790年頃フランスのノルマンディー地方の小村、カマンベール村に住むマリー・アレルという主婦が発明したとされ、近くの町には彼女の記念像が立っている。これらのお話には諸説ありますが、このチーズは誕生以来、生産者の地道な努力と、いくつかの幸運が重なって次第に人気を獲得していきます。食べ切りのいいほど良い大きさ、そして清潔さを象徴する白さ、その上1898年のポプラ材のパッケージの出現で輸送も容易になると、パリでは最も可愛らしくお洒落なチーズとして不動の人気を獲得するのです。

これほどの人気者が放って置かれるわけがない。続々とカマンベールのまがい物が増殖していきます。最初はフランスの各地で、そしてヨーロッパ各国から世界へと広がり自称カマンベールが増え続けるのです。加えて、カマンベール名の詐称に関する裁判でフランスの裁判所はカマンベールとは一般名称なので使用は自由という判決を下します。その結果自称カマンベールはさらに増殖を続け世界を覆ってしまうのです。

原料を提供するノルマンド牛

そこで1986年に本家のノルマンディーでは、乳牛の品種から原料乳の生産エリア、無殺菌乳使用の義務化など、生産工程を細かく定めた仕様書を作成し、これに合格した者だけが「カマンベール・ド・ノルマンディー」の名を与えるとしたのです。A.O.C.(後にA.O.P.)認証のカマンベールの誕生です。が、めでたしめでたしとはいかなかった。

その後の2007年、ノルマンディーの最大手2社が、A.O.C.カマンベールの仕様書の一部改訂を関係機関に申請する。その内容の一つが「殺菌乳」使用の許可でした。大量の原料乳を集めなければならない大手は、原料乳生産の現場まで目が届きにくく、無殺菌乳での大量生産はリスクが大きくなるからです。これを知った中小の生産者やテロワール・チーズ協会はこれを「生乳カマンベールに対する宣戦布告」であるとし、マスコミを巻き込み「カマンベール戦争」といわれる事態を引き起こすのです。騒ぎの拡大に驚いた件の大手は、我々は無殺菌乳使用も含めて選択肢を増やしてくれといっただけだとトーン・ダウン。2008年には申請書は却下されます。大手は以後殺菌乳のチーズを単に「ノルマンディー産カマンベール」の名で販売することになるのです。

型入れはお玉で

そして、今年の2月「カマンベール戦争」の終焉を迎える事態が起きます。簡単に言えば10年前に却下された「殺菌乳」使用が、生産者と関係機関との間で合意が成立し、今後は「殺菌乳」使用のA.O.P.認証のカマンベールが加わることになるというのです。実現はまだ先だといいますが、これまでの「無殺菌乳」使用の伝統的製法の製品には「正真正銘の」などの形容詞が付きそうだということです。
結局、本物のカマンベールは2種類ということになり増々ややこしくなりそうです。そして味はどうなるのか。早く食べ比べてみたいですね。

巨大な大手の熟成庫