乳科学 マルド博士のミルク語り

食事パターンと健康効果

2017年8月20日掲載

C.P.A.の会員各位は乳・乳製品を日常的に食べていると健康によいことをよくご存じです。しかし、一部の医療関係者の中には、乳・乳製品の摂取を控えるよう助言する方々がいます。その理由は、論文では乳脂肪には飽和脂肪酸が多く、飽和脂肪酸は循環器系疾患のリスクを上げると報告されているためです。確かに、2000年以前の論文は飽和脂肪酸の健康への弊害を報告しています。最近ではそのような論文は少なくなりましたが、今でも飽和脂肪酸の弊害を報告する論文は発表されています。そのため、日本の「食事摂取基準2015」では飽和脂肪酸の摂取量は欧米に比べて低く設定されています(日本:摂取総エネルギーに占める飽和脂肪酸由来のエネルギーが7%未満、FAO/WHO: 10%未満)。1日の総摂取エネルギーを2,000kcalとすると、牛乳換算で約650ml/日となります。しかしながら、乳・乳製品を摂取していても循環器系疾患のリスクとは無関係とする論文が多く、日本人を対象にした調査では飽和脂肪酸の摂取量が多いと循環器系疾患リスクが低くなると報告されています(Umezawa et al., Stroke 39: 2409-2456, 2008)。

どうして、このように異なる結果となるのでしょうか。最近、食品と健康効果の関係について研究が進展し、乳・乳製品や野菜・果物が健康には欠かすことができない重要な食品であることが科学的に明らかにされてきました。しかし、私たちの日常的な食事は乳・乳製品、あるいは野菜・果物のみではありません。そこで、実際の食事パターンが健康にどう影響するかが調べられるようになりました。

2016年にデンマークで開催された専門家会議においても、乳・乳製品の健康効果は乳に含まれる個々の栄養素の効果を考えるのではなく、食品全体としての生体機能性に基づいて検討すべきだという結論になりました(Thorning et al., Am. J. Clin. Nutr. 105: 1033-1045, 2017)。さらに、2017年5月24日、国立ガンセンターが実施した日本人約8万人を対象にした疫学調査結果が発表され、多くのマスコミにも取り上げられました(http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/7899.html)。日本人の食事パターンを、野菜・果物、イモ、大豆、きのこ、海藻、魚、緑茶などの摂取が多い「健康型」、肉類、パン、果汁、コーヒー、ソフトドリンク、マヨネーズ、乳製品の摂取が多い「欧米型」、ご飯、味噌汁、漬物、魚介類、果物などが多い「伝統型」に分類し、メタボ、ガン、心疾患、死亡率などとの関係を調べました。その結果、「健康型」の食事パターンの人は循環器系疾患、心疾患、脳血管疾患による死亡リスクが有意に低く、全死亡リスクも有意に低くなっていました。「欧米型」も「健康型」とほぼ同じ傾向で、ガン、循環器系疾患、心疾患による死亡が有意に低く、脳血管疾患による死亡も有意ではなかったものの低い傾向でした。勿論、全死亡リスクは有意に低くなっています。それに対して、「伝統型」は死亡リスクを上げることも、下げることもありませんでした。乳・乳製品や肉を食べることは健康に悪いと主張する反乳論者にとっては受け入れがたい結果となったわけです。

さらに論文は、各食事パターンに属する方々がどのような食品や栄養素を実際に摂取しているか記載してあり、その中から特徴的なもののみを抽出したものを表に示します。「健康型」は野菜・果物、イモ、豆、ナッツなどの摂取が多いのは当然ですが、意外なことに乳・乳製品の摂取が「欧米型」と同じく多く、したがってカルシウムの摂取量も「欧米型」よりむしろ多くなっています。そして、悪の巣窟であるナトリウムの摂取量が高いのです。「欧米型」は肉や乳製品の摂取が多く、悪者扱いされてきた飽和脂肪酸の摂取も多いにも関わらず、「健康型」と同様健康的で低い死亡率でした。こうした結果は、個々の食品や栄養素だけでは健康に良いか悪いかを議論できないことを意味し、食事パターンで解析する重要性を示唆しています。乳の飽和脂肪酸は決して悪者ではないことは最近多くの論文で報告されています。しかし、ナトリウムですら、食事パターンによっては影響が下がる可能性があることも示唆されます。牛乳・乳製品のせいかな??だって、「色白は七難隠す」と昔から言うじゃないですか。