世界のチーズぶらり旅

世界遺産の遺跡が牧場に?

2014年6月1日掲載

イスタンブールのスパイス専門店

 日本人にとってトルコといえばあまり馴染みのない国かも知れないが、ユーラシア大陸をいわゆる西洋と東洋に分けるなら、トルコは東洋の西の端にある国である。国土の大部分(95%)を占めるアナトリア半島は、地中海、エーゲ海、黒海に面していて面積は日本の約2倍。地方によって地形や風土がかなり異なる。この多彩な風土の中で様々な農作物が栽培され食糧自給率はほぼ100%といわれる。東西文明の十字路といわれたアナトリア半島は古代より様々な民族が行き来した。そのためこの地にはおびただしい遺跡が残っていて、日本からのトルコ・ツアーのほとんどが遺跡めぐりである。

チーズの主体はフレッシュチーズ

このアナトリア半島に、最後に強大な帝国を作ったのは中央アジアからやってきた騎馬遊牧民のトルコ人であった。それはたかだか700年前の事に過ぎない。現在のトルコは様々な人種が入り混じっているが、最盛期にはバルカン半島から北アフリカの沿岸部にも領土を広げ、華やかな宮廷文化を咲かせた。現在のトルコ料理がフランスや中国の料理と並び称せられるのは、食べることに貪欲だったトルコ人が、伝統的な地中海料理やアラブ料理を取り入れ、宮廷で進化させたものが今に伝えられているからである。またトルコは香辛料取引の十字路でもあり、帝国の都であった現イスタンブールには香料やスパイスが多く集まりそれがトルコ料理を特徴づけた。

真空パックされたトウルム・ペイニリ

トルコ民族の主体は遊牧民だったから、今も少数ながら国内には遊牧民がいて羊などの移動牧畜を行っている。世界のチーズ消費量の統計にはトルコが入っていないが、市場で売られているチーズやホテル等で出されるチーズの量を見るにつけ、その消費量は半端ではないと思われる。トルコではチーズをペイニル(Peynir)あるいはペイニリと呼び、最も多く見かけるのは、ギリシャのフェタ系統のフレッシュチーズである。そのほかにはカシャル・ペイニリと呼ぶ熟成チーズもあるが、フレッシュチーズとは売り場や店が別になっているのが面白い。

遺跡の中を羊が行く

熟成チーズの一つでトウルム・ペイニリという伝統的なチーズはフレッシュチーズを細かく砕いて山羊の皮袋に詰め熟成させる。濃厚な味わいの個性の強いチーズだ。現在は皮袋ではなく、真空パックしたものがスーパなどで売られていた。また、繊維状に裂けるパスタ・フィラータ系のチーズもかなりある。このパスタ・フィラータの技術は、この西アジアで発祥したという説もある。また日常生活に欠かせないヨーグルトは、そのまま朝食などに食べるほか、料理にも大量に使われている。

アナトリア半島には数千年間にこの地を支配した複数の民族の遺跡が数多くあるが、それらの遺跡を巡っていると羊、山羊、牛などの群れによく出会う。広い国土とは言いながら遊牧民は所有権が確立した土地には当然無断で立ち入ることができない。そこで彼らは路肩や河川敷などの草を食わせる。その姿はバスの車窓からよく見かけた。そして無数にある遺跡も家畜の餌場になっている所も多い。大方の遺跡は石造りだから動物たちによる被害は少なく、かえって遺跡の除草を期待しているフシもあり、世界遺産の遺跡に家畜のフンが落ちているのも珍しくない。

古代遺跡に牛の群れが

アナトリア半島の中部に紀元前17世紀から帝国を作り約500年間栄えたヒッタイトの貴重な遺跡群を訪れた時の事である。高台からその広大な史跡を眺めると、何とそこには牛の群れが放牧されていた。土器などの壊れやすいものは有刺鉄線で囲われているがそれ以外は出入り自由なのである。このようにしてトルコでは大量に消費されるチーズやヨーグルトの原料を確保しているのであろうか。