世界のチーズぶらり旅

エストレマドゥーラの赤いバラ

2012年2月1日掲載

熟成中のハモン

突然ですが筆者は生ハム狂である。ヨーロッパへ行くと必ず土地の生ハムを物色する。香港ではアジアの生ハムである金華ハム(金華火腿)を探した。最初は何も知らずに食べていたが生ハムにもブランドがあることを知り、それからは有名な生ハムを探した。

最初に感激したのがパルマの生ハムである。イタリアのパルミジャーノの工房を訪ねた時、隣には豚舎があり、そこにはパイプが通っていてチーズから出るホエーを送っているのだという。そこで思い出した!プロシュート・デ・パルマ(パルマの生ハム)なるブランド名はこのホエーを豚に与える事が条件になっている。そこで、さっそく街のレストランに行き、ほんのりとさくら色で甘みのあるパルマの生ハムを堪能したのだった。

エストレマドゥーラの平原と
羊の群れ

最初にスペインを旅した時はハモン・セラーノ(山のハム)に驚いた。どんな小さなBarの壁にもヒヅメの付いたハモンがぶら下がっていた。スペインこそ生ハム大国なのだ。

2000年に入って間もなく、ある雑誌がハモン・イベリコ・デ・ベジョータというスペインの高級生ハムの詳細を特集した。これをきっかけに、日本ではこのハムの人気が高まっていった。今では宝石かと思うほど高い。

ケソ・イボレスの工房で

ある年スペインの西部の最も不毛の地とされるエストレマドゥーラ地方を訪ねた。不毛の荒野を想像していたが、早春だったからか、見渡す限りの平野には貧弱ながら青い穂をつけた麦畑が広がり、短い草が一面に生える草原には羊が放牧されている。遠くにはシルバーグリーンのオリーヴの林やコルク樫の林が見える、という風で思わぬのどかなスペインの春を楽しんだが、夏になればこの辺りは強烈な太陽に炒られ枯野になるという。

豪快に盛られた珠玉のハモン

こうした荒々しい風土にも関わらず、この地方にはやさしいチーズがある。朝鮮アザミの雄シベのエキスでミルクを固めた羊乳製の柔らかいチーズ、セレナや側面にレースを巻いて熟成させる優雅なトルタ・デル・カサール、そして山羊乳製で表皮をピメントで赤くしたイボレスなどである。このあたりにはこうしたチーズを作る工房が点在している。

これらのチーズ工房めぐる途中に、あのイベリコ・デ・ベジョータというスペインで、いや、世界でも最高級にランクされる生ハムの工房の見学が組み込まれていた。このハムはこの地方の特産で、指定されたイベリコという黒豚を飼育し、最後に森の中に放牧してベジョータ(ドングリ)を食べさせて肥らせる。高い品質を維持するために放牧する豚一頭当たりの土地の広さも決められているなど、細かい規定がある。

在来種を掛け合わせた
黒いイベリコ豚

ハモンの製造工程は単純なので、工房はさほど大きくないが熟成庫の天井から豚の後足が大量にぶら下がり熟成を待っている様は圧巻である。試食室には数種類の豚肉製品が大皿に盛られ、中でもひときわ目を引くのは大胆に盛られたハモン・イベリコ・デ・ベジョータである。鮮やかな赤身に白い脂肪のサシが入っていて美しい。荒野に咲く大輪の赤いバラのようだ。日本でならばこれでン万円だな、などと貧乏ったらしい事を言いながらたっぷりと試食させてもらった。