フロマGのチーズときどき食文化

新大陸からの贈り物

2017年2月15日掲載

カナリア諸島のジャガイモ料理

 スペイン領のカナリア諸島を旅したとき、素朴なジャガイモ料理がしばしば現れるのにはびっくり。スペインでジャガイモ料理ですからね。かつて、この島々から、コロンブスが西に向けて船出して新大陸を発見します。以来この島々は新大陸への基地になります。南米アンデス山脈原産のジャガイモをヨーロッパに持ち込んだのは、インカ帝国を征服したスペイン人なのですが、最初に普及したのはドイツとかフランスなど気候が厳しく飢饉に悩まされた国々でした。当時ジャガイモは「貧者のパン」と言われ貧しい人々の命を救ったのです。日本だって北海道の開拓も厳しい気候に耐えるジャガイモなしでは難しかったでしょうね。日本へは約400年前にオランダ船がジャカルタ経由で持ち込んだので当時はジャガタラ芋といった。

 最初の頃のジャガイモは、小さい不気味な塊だったので食べる人はいなくて、長い間豚の餌でした。ヨーロッパに到着してから数百年かかってやっと一般に普及します。その後ジャガイモは油脂やチーズなどと出会って様々な料理が生まれる。油で揚げたフレンチ・フライやポテトチップスは世界を制覇しました。そしてチーズと出会いグラタンが数多く生まれます。最近日本でも知られるようになった、マッシュポテトとチーズを練り合わせて作る修道院生まれのアリゴはフランス、オーヴェルニュ地方の名物料理になります。最近、日本のハンバーグ店の新作にアリゴを使ったハンバーガー出現したとのこと。

南米原産のトマト

 さて、新大陸からきた作物でジャガイモ同様に重要な物といえば、トウモロコシとトマトでしょう。トウモロコシは人の食料よりも、家畜の餌としての方が重要かもしれませんが、トマトの方は、これなしでは現代の食卓はずいぶん寂しくなるでしょう。特にイタリア料理はトマトなしでは、大げさに言えば、そのアイデンテティを失いかねない。

ピッツア・マルゲリータ

 南米原産のトマトも、やはりスペイン人が当時スペイン領だったナポリに持ち込みますが、一般に普及するまで200年もかかるのです。イタリア特有のパスタは、トマトと出会うまではもっぱらチーズを大量に振りかけて食べていました。それが17世紀末にナポリの料理人が「スペイン風トマトソース」を考案しそれが大成功を収めます。(パスタでたどるイタリア史:岩波ジュニア新書)。こうしてイタリアのパスタやピッツアの大半がトマト色に染まるのです。そして、モッツアレラと出会いピッツア・マルゲリータや、カプレーゼというサラダも生まれます。とはいえトマトを南米から持ってきた張本人のスペインにはトマト料理はあまりないのです。これも歴史の不思議ですね。

キムチを辛くした唐辛子

 新大陸からヨーロッパへの贈り物はまだまだあります。インゲン豆、サツマイモ、カボチャの仲間のズッキーニなんかもそうです。中でも唐辛子は香辛料として割合早く日本に入ってきました。唐辛子の「唐」とは中国からのという意味ではなく、昔は外来の物によく使われた文字です。唐辛子を「南蛮」という地方もあります。筆者の子供の頃はそう呼んでいた。これは、南蛮胡椒を省略した言い方で、16世紀の中頃、唐辛子を日本に伝えたポルトガル人を南蛮人と呼んでいた事から来ています。唐辛子を大量に使うのは朝鮮半島のキムチですね。キムチは千年ほどの歴史があるようですが、唐辛子を使うようになるのは意外に新しく、せいぜい250年前位だそうです。最初に持ち込んだのは豊臣秀吉の朝鮮出兵の時、兵士が目つぶしや毒薬などの武器として、九州から持って行ったとされています。

新大陸からの贈り物達

 話が少し辛くなりましたが、甘唐辛子と呼ばれるピーマンも新大陸の贈り物です。そしてぐっと甘い方では、イチゴ、パイナップル、パパイヤ、そしてアボカドなども新大陸発祥の果実なのです。その種類の多さに改めて驚かされますが、こうしてみると、いわゆる新世界(新大陸)から旧世界に持ち込まれた作物は、500年ほどの間に、世界中の人々の食生活には欠かすことのできない重要な食料になっているのですね。