フロマGのチーズときどき食文化

チーズの屋台遍歴

2016年11月15日掲載

旅に出たら必ず市場をのぞくのが私の長年の習慣です。もちろん国内の旅でも近くにあれば行きますが、ヨーロッパなどでは小さな町でも市が立ちます。グルメガイドで有名なあの赤本、ミシュラン・ルージュにはフランスならば主要な町は地図が載っていて、公設市場の場所が記載されています。この公設市場の周囲にはたいてい、テントの日除けか、パラソルを立てた屋台が並んでいるのです。私は宿泊地に市場があるかをこのガイドブックで確かめ朝食前に行くことにしています。もちろん目当てはチーズです。ここでびっくりする事は、ヨーロッパではチーズを木の台に直接置いて売っている所がけっこうある事です。日本では冷蔵庫に入れなくてはダメですね。そんな情景を写真でお見せしましょう。

朝市で自作のチーズを売る

1点目の写真はフランスのアルザス地方のマンステルという谷間の町で、同名のチーズを売るおばさん(右側)です。ヴォージュ山脈の尾根筋にある牧場で彼女は夫婦で牛を飼いA.O.P.のマンステルを主体に、数種類のチーズ作っているのです。旦那様は牛の世話などの外回り担当で、彼女が一人でチーズを作っている。そして土曜日の朝、山から下りてきて自作のチーズ売るのです。男が家畜の世話、チーズ作りは女性の仕事という、ヨーロッパでは何百年も続けられてきた伝統がまだ残っているんですね。

屋台で売られるパルミジャーノ

次の写真はイタリアのアドリア海に面したバーリーという町で見た屋台のチーズ屋さん。それにしても、すごいボリュームのパルミジャーノです。それに、パラソルで日よけしただけの屋台でこれほどのチーズが売れるという事に驚いてしまいます。イタリアではパルミジャーノをこんな風に、荒っぽくカチ割りにして売っているのですね。

イスタンブールの白いチーズ

次はトルコのイスタンブールで見つけたチーズ屋さんです。これはベイヤーズ・ペイニリといって、ギリシャのフェタに似た塩辛いフレッシュチーズですが、買っていく量が半端じゃない。プラスティックのトレイに小分けしたものは、1kgはあるでしょう。見ているとこれを2個も買っていくおばさんもいました。イスタンブールのホテルなんかではこの種のチーズが数種類出てきます。

コルシカの太陽の下で

4点目の写真は、南国コルシカ島の首都アジャクショの市場です。朝市の開かれる広場には、この町で生まれたナポレオンの像が立っています。6月でしたからけっこう暑いなか冷蔵庫がある店もあるけど、このようにテントの日除けの下にチーズを並べて売っているんですね。チーズに朝日が当たってますよ。でも、さすがに、ブロッチューなどのフレッシュ系のチーズは冷蔵ケースの中でした。このような風景を見るにつけ、冷蔵庫とチーズとの関係はまだ百年もたっていないのだなということに思い当たるわけです。チーズと人間の関係は数千年ですからね。

ブリ三兄弟を売る

最後の写真は、クロミエの町のチーズ屋台です。この町は白カビチーズのブリの産地で知られるモーの町から20km南東に下ったイル・ド・フランスの平原の只中にあります。このあたりでチーズ3兄弟いえば、パリの宮廷でもてはやされ、1815年のウイーン会議でチーズ王の選ばれたブリ、そしてやや小ぶりだけど個性的なブリ・ド・ムラン。最も小さいのがブリ・ド・クロミエ。こちらはA.O.P.を取得していません。

少し古い話になるけど、ブリ・ド・モーの取材でこのモーの町を訪れた時に、クロミエの朝市でこのブリ三兄弟が売られている屋台があるというので、物好きにも行ってみたという訳です。教会が見える広場にブリ兄弟を売るテントがいくつもあって、板の台に敷かれたワラの上にチーズが並んでいました。ここで驚いたのは、真っ白で美しいはずのブリ兄弟の表面が茶色になっていて、我々には明らかに過熟気味と見えるけど、フランス人は皆これ位の熟度のブリを好んで買っていくのでした。勉強になりました。