フロマGのチーズときどき食文化

豆腐とチーズの出会い

2016年9月15日掲載

大豆の未熟実のエダマメ

 今年は残暑が長引きました。暑いときにはビール、そして、おつまみはとりあえず枝豆ですね。そこで、枝豆について少し話しましょう。近頃では枝豆の正体を知らない人が多いんですね。「枝豆」という豆があると思っている。枝豆とは大豆の実が、まだ未熟で青いうちに食べる豆です。熟して黄色くなれば大豆です。近頃では大豆を見る機会も少ないようなので、写真で二種類の大豆をお見せしましょう。黒い方はおせち料理にする黒豆です。

単純に云って植物の種子を乾燥させて利用する物を穀物といいますが、その中で、まだ熟していない実を野菜として食べるものがある。その一つが枝豆です。他にインゲン、サヤエンドウ、トウモロコシなども未熟な実を野菜として食べています。

二種類の大豆

 世界の三大穀物といえば、収穫量の多い順に、玉蜀黍(トウモロコシ)、米、小麦ということになっています。小麦と米は世界各国で主食、あるいは準主食用の穀物として重要ですが、玉蜀黍は料理の応用範囲が狭く、むしろ家畜の餌として需要が高いので生産量はダントツなのです。あのフォワ・グラをとる鵞鳥も玉蜀黍を与えて肝臓を肥大させます。
大豆の生産量は小麦に次いで4位。油脂の原料にもなりますが、東洋では味噌、醤油などの調味料を筆頭に様々な加工食品になるなど、応用範囲が極めて広いのです。我々が普通の食生活を送っていれば、味噌、醤油などの調味料を初め、豆腐、湯葉、納豆などの大豆製品のどれかを必ず食べています。

稲わらで発酵させた納豆

その中で、糸引き納豆は日本特有のもので、稲ワラに付いている納豆菌を利用します。写真4点目の黒いものは、中国の豆鼓(トウチ)という大豆製品で、日本の浜納豆の原型のようなものですが、糸引き納豆とは別の微生物で発酵させます。塩辛く調味料として使います。

 調味料を除き大豆から作る重要な食品といえばまずは豆腐でしょう。英語圏ではすでにtofuという言葉は定着しているようですが、ソイビーン・カード(soybean curd)という言葉もある。このcurdという言葉はチーズの製造用語に出てくるカード(凝乳)と同じ意味なので、訳せば大豆のチーズという事になりますね。なのに、なぜ日本語では豆が腐ったと書いてトウフになったのか。これには豆腐発祥の地である中国の歴史がかかわっています。最初に「豆腐」の文字が現れるのは10世紀頃とか。当時の中国には乳文化を持つ北方民族との交流で、バターやチーズなどの乳製品が入ってきます。そこで、バターは「酪」、ヨーグルトは「乳酪」、そして乳を固めたチーズを「乳腐」と表記したそうです。それにならって、豆乳を凝固させた物に「豆腐」という文字を当てたのだそうです。千年前に豆腐とチーズはこのようにして出会ったのですね。

中国の納豆?

 このようにして中国で発明された豆腐は、アジア圏一帯に広まり、やがて日本にもやってきます。豆腐を炒め物や揚げ物などの料理に多用する、中国を初め他の国では、水分が少なくて固い豆腐が多いのですが、日本では水分が多く真っ白で柔らかい独特な豆腐を完成させました。江戸後期に「豆腐百珍」という料理本が出版され、豆腐料理の多様性を物語っていますが、ネットで好きな豆腐料理のランキングを見ると、上位から、冷ややっこ、麻婆豆腐、湯豆腐、揚げ出し、味噌汁となっている。麻婆豆腐は戦後、東京に四川飯店を開いた故陳健民氏が、日本人に合うように工夫し広めた中国は四川の料理です。

木綿豆腐と腐乳

 最後の写真は一般的な木綿豆腐ですが、その前面にあるのは中国料理によく使われる腐乳(フニュウ)という発酵させた豆腐です。前出の「乳腐=チーズ」との関係は解りません。匂いもきつく旨味も強い所などは、まさにウォッシュチーズの豆腐版といいたい代物ですが私は好きです。