フロマGのチーズときどき食文化

フランスのグリュイエールチーズの不思議

2015年8月15日掲載

スイスのグリュイエール近辺の風景

グリュイエールとはいかなるチーズかと問えばチーズを勉強した人なら即座に、スイスの南部、フリブール州を中心にした地域で牛乳から作られるスイスを代表するハード系のチーズです。と即座に模範解答が返ってくるでしょうね。直径55~65cm、重さ25~40kgとごていねいに大きさまで答えるかもしれません。ま、いってみればこのチーズはそれほど、世界に広く知られるスイスを代表するチーズなんですね。歴史は古く中世に遡る。以上が基本的な情報です。でも世の中それほど単純ではない。もともとチーズは産地名で呼ぶことが多く、同系のチーズでも産地が違えば呼び名も違うという事はよくあることです。

スイスのグリュイエール

昔話しですが、私もチーズを勉強し始めた初期のころは、ウオッシュやシェーヴルなどのチーズはまだ日本では知られていませんでしたが、オランダのゴーダやエダムの他、スイスのグリュイエールやエメンタールはかなり知られるようになっていました。チーズの普及を手掛けていた筆者は、普及の切り札であるチーズ料理も勉強しました。その時フランスの文献などを参考にするわけだけど、フランスの本には、料理の材料としてグリュイエールが頻繁に現れるのです。クロック・ムッシューもグラタンも使うチーズはグリュイエールとなっている。グリュイエールはスイスのチーズのはず、フランスにだって料理に使えるチーズが沢山あるのに、なんで?という疑問がずっとわだかまっていました。

Gruyér de Conté

ワインブームに遅れる事10年以上。やっとチーズブームらしきものがやってきてヨーロッパの多彩なチーズが輸入されるに及んで、フランスにもグリュイエールがあることを知ります。調べてみるとフランスの山のチーズであるコンテもボフォールも名前の前に(gruyèr de)を付けた呼び方もありました。AOP(EUの原産地名称保護制度)指定を受けているこれらのチーズの正式の呼び名にはこの文字はありませんが。

Gruyér de Beaufort

それはそれとして、フランス人は大胆というか大雑把というか、硬いチーズなら何でもグリュイエールといってしまうんだそうです。昨年出版された「フランスチーズガイドブック」の中で、著者であり自らもチーズ店のオーナーである、マリー・アンヌ・カンタンは、フランス人はスイスのグリュイエールは「フリブール」呼び、ややこしいことに自国のエメンタールもグリュイエールと呼んだりすると嘆いている。更にフランス人は加熱圧搾タイプ(固い大型チーズ)を何でもグリュイエールと呼ぶのだ、とも書いています。これを読んでフランスの料理書にグリュイエールが多く現れる理由をやっと納得しました。

これもフランスではグリュイエール?

とはいえこのグリュイエール系のチーズはとても優れています。「百科全書的チーズ」などという人もいたりして、テーブルチーズとして、また様々な料理にその真価を発揮し、各方面で重宝されています。グリュイエールのルーツといえば、現在のスイスあたりで2千年以上前にエトルリア人が作っていた硬いチーズだったそうです。ローマ帝国の後期から、修道士たちが山岳地帯を切り開いて大規模な牧場を作り、この固い大型のチーズを改良し増産します。品質が良く保存がきき長旅にも耐えるこのチーズは、交易品として、たちまち人気を博し、製法が周辺地域にも広がり大きな産業になっていきます。そして、いまでは、それぞれの地域で、それぞれのグリュイエールが作られてきたというわけです。