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玉ねぎといえば今や日本の食卓には欠かせない野菜です。でも玉ねぎは偉大なる脇役です。といったら意外に思うかも知れないけど、では玉ねぎが主役の料理を云ってくださいといわれても、ぐっと詰まるでしょう。ハンバーグやカレーには玉ねぎは欠かせない。フランス料理だってイタリア料理だって玉ねぎがないとダメというものがたくさんあります。煮込みとかスープなどには不可欠な野菜です。だから偉大な脇役なのです。
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それに玉ねぎと人間との付き合いはとても長い。エジプトのピラミッドの労働者に支給されたというから数千年の歴史があるのです。ローマ時代のアピキュウスという食通が書いたとされる、料理書の中の奇妙奇天烈な料理にも玉ねぎが多く使われているというほど昔から重要な野菜なのです。それなのに人は玉ねぎにはかなり冷淡です。
中世のヨーロッパでは玉ねぎにチーズ、そしてパンをセットすれば貧しい食事の代名詞です。この風潮は古代からあり、古代ギリシャにはこんな歌が残っている。「愉快だ、愉快だ/かぶとをおっぽり投げて/チーズと玉ねぎにゃおさらばだ/戦いは嫌いだ」(食べるギリシャ人:岩波新書より)」。当時兵士の食糧は毎日チーズと玉ねぎだったのでしょうか。ローマ時代の兵士には一日に27gのチーズが支給されたと塩野七海さんが書いています。
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時代が下って17世紀に書かれた有名なスペインの物語の主人公、ドン・キホーテは従者サンチョを伴って冒険の旅に出て、羊の大群に突っ込んだり、風車に突進したりしながら旅を続けるのですが、貧乏な騎士は食べ物にも困る。ある日、従者のサンチョにズタ袋に何か食い物が入ってないかと尋ねると、サンチョは「玉ねぎとチーズのかけら、それにパンがちょっぴり。しかしいずれも旦那様のようなお方が召し上がる食べ物じゃねぇでがす」と答える。シェクスピアなんかも作品の中で玉ねぎ(あるいはニンニク)とチーズは貧しいものが食べるものとしている。我々にはスタミナ食に見えますがね。
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このようにヨーロッパの物語には、チーズと玉ねぎがよく出てきますが、玉ねぎはしばしば生で食べていたらしい。エーッ辛くないのと思いますね。ちょっと気になったので調べてみると、玉ねぎには東欧で栽培される「辛タマネギ系」と南ヨーロッパの辛くない「甘タマネギ系」あるんだそうです。だから南ヨーロッパの人達は玉ねぎをリンゴのようにかじったらしい。日本の玉ねぎは明治の初期にアメリカからきた「辛玉ねぎ系」だったそうです。だから生で食べるときは水にさらさなくちゃいけない。
最後にチーズの話ですが、ドン・キホーテの食べていたチーズは何だったか。それはもうラ・マンチャの騎士だから地元の羊乳チーズ、マンチェゴに違いないとメーカーはケソ・マンチェゴのラベルにはドン・キホーテとサンチョのイラストをのせている。が、物語に出てくるチーズはそんな上等なものではなかったらしい。物語では「漆喰のようなチーズ」とか「巨人の頭を叩き割れるくらい固いチーズ」と表現されているからです。
表題の「あなたとならばチーズと玉ねぎ」は、スペインのことわざ「あなたとならばパンと玉ねぎ」をもじったものです。筆者としては玉ねぎときたら、チーズが来ないと落ち着かないからですが意味は分かるかな。「あなたとならば手鍋さげても」という日本のことわざと同じです、といったらますます分からなくなるかな。困ったことです。