フロマGのチーズときどき食文化

アジアのチーズ、ヨーロッパのチーズ

2015年3月15日掲載

熟成させるヨーロッパ型のチーズ

 世界のチーズを大雑把にくくると、アジア型とヨーロッパ型に分けることができます。といっても、一般の人には分からないでしょうが、この百年間で日本に普及したチーズは全てヨーロッパ型のチーズです。日本人って不思議な民族だなと思う事が時々あります。ユーラシア大陸の東の端っこの更に海を隔てた島国にありながら、わざわざ一番遠いヨーロッパからチーズを取り入れ食べてきた。現在日本で一般に売られているチーズは全てヨーロッパ型のチーズなのです。これにはいろいろ歴史的な事情があるけどここでは触れません。

 

東京で買ったパニール

ところでアジア型のチーズってどこで買えるの?といわれても日本では入手困難です。インドとかブータンとかモンゴルにでも旅しなければ、中々食べる機会ありません。私の知る限りでは、東京の新大久保にあるインドの食品を売る店でパニールというインドのチーズがありましたが、一般的にアジアのチーズは地元消費が多い上に、食材としてグローバルな市場に馴染みにくいという事情があるのです。

ゲルの中でのチーズ造り

 さてそこでアジア型とヨーロッパ型の違いは何かといえば、ヨーロッパの伝統チーズは一定の期間地下室などで熟成させる熟成型が基本ですが、アジアのチーズは熟成させないのです。作ったらすぐ食べてしまうか、カチカチに乾燥させたりします。従って、熟成チーズ特有の旨味はありません。もう一つの違いはミルクを凝固させる方法です。ヨーロッパ型ではミルクを凝固させるときに大半はレンネットいう酵素を使いますが、アジア型はほとんどが「酸加熱凝固」といって、ミルクを発酵させ、酸っぱくなった物を加熱して凝固させます。更にこれを脱水して乾燥させることが多いのです。だからできたチーズはかなり酸っぱい物が多い。

できあがった自家製のアーロール

 数年前にモンゴルの遊牧民のゲル(可動式住居)に泊まってチーズ作りを見せてもらいました。彼らは夕方草原から羊や山羊の群れを連れ帰って搾乳します。そのミルクを大きな鍋にいれ、ストーブにのせて加熱しながらお玉ですくっては、鍋の中に落とすという作業を繰り返す。そうすると表面に脂肪を抱き込んだ泡の層ができます。これを冷やしてから脂肪の層を掬い取る。次に脂肪をとったスキムミルクを温めヨーグルトの種菌を加えて一晩発酵させます。ヨーグルト状になった物を更に火にかけ、ゆっくりと水分を飛ばし最後は布でホエーをこし取ると、彼らがアーロール(内モンゴルではホロート)と呼ぶチーズになります。最終的には、これを薄く切ったり木型で成形して乾燥させ保存食にするのです。根気のいる仕事です。主都ウランバートルの店には工場製のアーロールが20種類近く並んでいましたが、ほとんどが固く乾燥させた物でした。

市販のアーロール

 前出のインドのパニールも古典的な作り方は、ミルクを乳酸発酵させヨーグルト状になった物を撹拌してバターを分離させます。そして残りの脱脂されたヨーグルトを加熱脱水すればパニールができる。しかし現在では熱くしたミルクに酢酸などを加えて固める簡単な方法が主流のようです。

この方法ならば誰でも簡単に作れます。市販の牛乳を買ってきて鍋に入れて火にかけ沸騰直前に食酢を大匙2杯ほど加えてかき混ぜると、牛乳はたちまちモロモロと固まってきます。そうしたら火からおろし、少し冷ましてからガーゼに包んでそのまま吊るして水分を抜くと、パニールもどきの物ができる。そのまま塩コショウで食べたりサラダにしても結構おいしいので試してみてください。

 ヨーロッパではこの様なタイプに近いのはドイツのフレッシュチーズ、クワルクでしょうか。クワルクの場合は乳酸発酵させその酸で凝固させます。いずれにしてもアジア型のチーズは手間はかかるものの作り方は単純なのであまり味にバラエティーがないのが特徴でしょうか。南西アジアには昔からクルットという乾燥させた固いチーズがありますが、同じようなものをインドではチェルピーといいます。