フロマGのチーズときどき食文化

私を天国につれてって!

2012年1月12日掲載

間もなく2月14日ヴァレンタインデーがやってくる。女性から男性にチョコレートを贈る日ですね。チョコを貰えないおじさんには義理チョコをあげる。それから一ヶ月後にはホワイトデーというのがあってチョコを貰った男性がお返しをする。これって誰が考えたんだろう。ヴァレンタインデーというからヨーロッパから来た習慣じゃない?と思いますか。いえ、これはすべて日本人が考えたもので外国にはない習慣です。貰ったらお返しする、義理でチョコを贈るなどは日本の村社会的な発想ですね。ホワイトデーなどという意味のわからない日を作ったのもすべて日本のお菓子屋さんとデパートが考えた戦略です。

ヴァレンタインデーは3世紀に殉教死したイタリアのヴァレティーノ(Valentino)という聖職者の命日で、一応はキリスト教の宗教行事の一つなんです。ヴァレンチーノは後に恋人達の守護聖人ということになり、従ってこの日は恋人同士が贈り物をし合う日になりますが、特にお菓子とかチョコに決まっていたわけではないのです。最初にハート型のチョコレートをこの日のために作って売りだしたのはロンドンのお菓子屋さんだったようで、それを日本の菓子メーカーが頂いたという訳です。

カカオの実。下の粒がココアビーンズ。

そんなわけで、ここでチョコレートについて少し書いてみましょう。チョコレートは写真の様なカカオの実の中にあるカカオ・ビーンズから作られる事は知っていますね。

原産地は中南米あたりで、カカオがヨーロッパに来たのはヴァレンチーノの殉教後1400年も後ですからジャガイモやインゲンの様に新しい食べ物でした。中南米を征服したスペイン人が持ち帰りますが、最初は利用法が分からなかった。17世紀中頃やっと飲み物として普及します。それをココアといったのですが、これはイギリスの呼び名でこれが日本に伝わった。明治の天才歌人石川啄木に「ココアのひと匙」という詩があります。当時のシャレ者はココアを飲んでいた。最近はホット・チョコレートなどと言ってますね。フランスではショコラ。固形のチョコレートが発明されるまではもっぱら飲み物だったのです。それが固いお菓子になり、日本では「板チョコ」なんて言う無粋な名で呼ばれるようになります。戦後になって大手メーカーが競ってタイル状?の板チョコを作って熾烈な商戦を展開します。これもあまり目にしなくなりました。その代わりショコラティェなどという職人がつくる芸術的な作品に人気があるようですがなにせ高いですね!でも、男性はチョコにそれほど凝る人も少ないでしょうから適当な所でお茶を濁し、ホワイトデーに期待です。

ティラミスとホット・ココア

さて、ここでチーズの話を入れないといけませんね。チョコレートの風味は様々な食品に使われていて、チョコレート入りのチーズだってありますが、チーズとの組み合わせで20年ほど前に爆発的に流行したのがティラミスです。今は普通の洋菓子店にもありますが、これはイタリアのマスカルポーネというフレッシュチーズにエスプレッソの風味をつけココアパウダーを振りかけた素朴なケーキでしたが、当時は天にも昇る美味しさでした。

イタリア語でTiramisuと書きますが、これを分解するとTira=引き上げる、mi=私を、su=上の方へとなる。これは「私を天国につれてって」と訳したいですね。というわけで今度のヴァレンタインデーには、手作りのティラミスで彼を天にも昇る心地にしましょう。