乳業メーカー大手の多くが瓶牛乳の製造・販売を終了するとの報道がマスコミを賑わせました。筆者にとって瓶牛乳といえば、毎朝宅配牛乳店から配送される牛乳瓶がぶつかり合い目覚まし代わりでした。銭湯で湯上りに、腰に手を当て飲み干す牛乳は「神田川」の歌を思い出させます。そして、学校給食に出てくる牛乳は和食に合わないから提供をやめようと主張する自治体が現れたりしました。この問題についてはJミルクのファクトシート(PDF)がありますので、関心のある方はご一読ください。
このように思い出の多い瓶牛乳ですが、問題もありありでした。瓶牛乳の製造工程を図1に示します。まず、飲み終わった空の牛乳瓶を回収しなければなりません。これに手間とお金がかかります。回収された牛乳瓶には紙屑や牛乳瓶の栓、タバコの吸い殻、など色々なゴミが入っています。ゴミは一本ずつ手作業で取り除きます。
ゴミを除いたら洗瓶機に入れて洗剤で洗浄した後、清浄水で濯ぎ、熱湯で殺菌してから検瓶ラインに送られます。ここでは空になった清潔な瓶の中に、他社瓶(瓶の形状、商品名が他社のもの)、破瓶(一部が割れている、ひびが入っている)、擦瓶(古くなり内部をこすり過ぎた瓶で透明性が失われたもの)などが混ざっているため、これらを目視で取り除く作業です。検瓶ラインは高速で瓶が流れてきますので、漫然と見ているだけでは除去すべき瓶を見逃してしまいます。ベテランの方に聞くと、空瓶がぶつかり合う音が取り除くべき瓶が混じっていると違うそうです。なので、音と眼で判断し除去します。しかし、当時新人だった筆者には難しい作業でした。その後、紙容器の牛乳と同様に、清浄化、均質、殺菌を経た牛乳を充填し、打栓します。

紙容器に比べ、瓶牛乳は空瓶を回収すれば繰り返し使用が可能というメリットがありますが、工場や販売店の近隣から瓶がぶつかり合う音が煩いとのクレームが頻繁に入ります。また、回収後のゴミ取り、洗浄、検瓶など手間と人手がかかるという欠点もあります。最近は牛乳瓶の欠点を減らす軽量瓶を利用している大手乳業メーカーもあります。瓶の厚さを薄くし、瓶外面に樹脂をコーティングして割れたり擦れたりしにくくなっています(吉永茂樹、NEW GLASS 32:67-71, 2017)。さらに、口部分の形状を工夫し、軽量化しています。

筆者の記憶によれば、学校給食で提供された牛乳は、最初は紙のドラム缶(ファイバードラム缶)(図3)に入った脱脂粉乳をお湯に溶かしてバケツに入れたものを給食当番がエッチラ教室に運び、お椀に入れて飲むやり方でした。決しておいしいものではありませんでしたが、腹をすかせた筆者はよく余った脱脂乳をお代わりしていました。やがて、いつからだったか忘れましたが、冷たい瓶牛乳に変わり、栓をできるだけ傷つけないように開け、それらを集めてメンコ代わりで遊んでいました。
牛乳瓶の歴史については昨年開催された酪農乳業史研究会のシンポジウムにて特集が企画され、トモヱ乳業に所蔵されている古い牛乳瓶をみることができました。今年は6月7日(土)に日本獣医生命科学大学にて学校給食の歴史を特集したシンポジウムが開催されます。詳しくは酪農乳業史研究会のホームページ(https://dairy-history.org/)をご覧ください。併せて紙容器牛乳の展示も行われます。是非、多くの方々の参集をお待ちしています。
「乳科学 マルド博士のミルク語り」は毎月20日に更新しています。
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