フロマGのチーズときどき食文化

チーズ造りの道具たちの仕事を見る 

2024年4月15日掲載

<チーズの形を作る2:プレス>
チーズの種類が多い国はどこ?、と問われたならば、やはりフランスでしょうね。チーズの形や種類は、風土によって造られるという側面があるといえば難しそうだけれど、簡単に言えば山で造られるチーズは大型で硬いものが多く、平野のチーズは小型で柔らかいものが多いという事です。もちろん例外はある。

① ゴーダのプレス器

今回のテーマは「プレス」ですが、ミルクを凝固させたカードを細かくカットし水分を分離させ、これを型に流し入れてプレスして水分の少ないチーズの原型を作つくる。これを熟成庫に並べて熟成させると、保存性の高いハード系のチーズができ上る。大型のハード系のチーズは一般的には運搬が不便な山中で造られてきたけれど、当然、例外もある。15世紀のヨーロッパ人が世界に船出していった大航海時代、オランダでは長い航海に耐えられるゴーダというセミハード系のチーズを作った。(写真① ゴーダのプレス装置)

② 筒状の型に入れたカードを反転しながらチーズの形を作っていく

大型のハード系のチーズはソフト系のチーズと作り方が違う。ミルクを凝乳酵素で凝固させたものをカードというけれど、どのようなチーズでも、まずはこのカードを作る。そして、柔らかい小型のチーズの場合はカードをカットせずにオタマのような道具で掬い取り、それを側面に水抜きの穴がある円筒形の型に入れていく。そうするとカードは自重で水分を放出しながら型の中に沈んでいく。それを写真②のように、途中で何度か反転してやると、程よく水分が抜けてチーズの形ができあがる。従って、ソフト系のチーズはプレスしない。

③ アルプスのチーズ小屋で造られるL'Etivaz のプレス

一方、大型のハード系のチーズの場合は、カードを細かくカットし、温度を上げながら水分(ホエイ)を放出させ、硬く絞まったカード粒を作る。これを集めて、所定の形のモールドに入れてプレスすれば、決められた大きさや形のチーズの原型ができ上がる。

さて、今回はプレスの話でしたね。写真③はスイスの山岳地帯の夏小屋で撮ったもの。この小屋は標高2千mのカール(氷河が削った台地)に建っていて、牛達をこの広大なすり鉢型の台地に放ち、香り高い高山植物の若葉を食べさせ、そのミルクから毎日レティヴァ(L'Etivaz )というA.O.P.指定のチーズを4コ造っていた。

④ 横型の長いプレス器

チーズの形ができると、すぐに麓の熟成庫に運ばれ、135日間の長い熟成期間に入る。写真④は中型チーズ用のプレス装置だけれど、この様に横に並べれば、狭い部屋でも一度に大量のチーズを処理することができる。
さて、最後は美しいプレス装置を紹介しよう。これはカナリア諸島の岩山の中腹にある、とても簡素なチーズ小屋で撮ったもの。そこには、おばさんと二人の若いが女性がいてこの島特産のチーズを作っていた。まずは、どこにでもあるミルクの輸送缶で羊乳を凝固させてカードを作り、それを、腕を使って細かくカットし、分離してきたホエイを廃棄する。

⑤ グラン・カナリア島の美しいプレス装置

そして、脱水したカードを布で包んでプレス台に載せ、その上に写真のように美女が乗っかり、両腕と膝を使ってカードをプレスする。こうして二人で一日に4個のQueso Flor de Guíaという羊乳チーズの形を作っていく。この工房にある道具といえばミルクの輸送缶と写真のように美女が乗っかっているプレス台だけなんですね。これには驚きました。

 

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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