乳科学 マルド博士のミルク語り

乳製品の栄養健康機能

2024年2月20日掲載

チーズを含む乳製品には様々な栄養健康機能があることは皆様ご存じのとおりです。栄養面では良質な(消化吸収に優れ、アミノ酸価が高い)たんぱく質、カルシウムをはじめバランスのとれたミネラルやビタミン類・・・と文句のない栄養成分が含まれています。健康機能に関して心疾患など循環器系疾患、高血圧や糖尿病のリスクを下げ、脳機能の維持、虫歯予防などなど私たちが生きていくために必要な健康機能も知られています。今回、乳の栄養健康機能を補強する新しい知見に関する論文を見つけたので、ご紹介します。

すでに何回か説明していますが、植物性食品は動物性食品より健康的と思い込んでいる方が多いのですが、その根拠は明確ではありません。例えば、アーモンドミルクやオーツミルクには牛乳よりカルシウムが豊富に含まれているので健康的だと多くの方は信じ込んでいます。しかし、100g中に含まれているカルシウム量だけでなく、1回に摂取するその食品の量、その食品に含まれているカルシウムの生体への吸収率を考慮する必要があります。表1は各種植物性食品や原料中のカルシウム量、生体吸収率、1回の摂取量を加味した生体への吸収量を示したものです(Muleya et al, Food Res Internl. 175: 113795, 2024)。吸収率は各食品全て同一の方法(放射性同位体)で測定しています。小麦粥、強化白パン、全粒粉パン、いんげん豆、豆腐、ケール、アーモンドミルク、オーツミルクは脱脂乳より100g中のカルシウム含量は高くなっています。トウモロコシ粥、インド米、強化白パン、さやえんどう、ブロッコリ、キャベツ、ケール、あんず、プルーン、およびレーズンでは生体利用率が脱脂乳より高くなっています。しかし、摂取量を加味すると脱脂乳は72.4mgに対してこれを上回る植物性食品はケールだけで、328mgも摂取されます。なので、脱脂乳を上回る植物性食品はケールだけなのです。

チーズは動脈硬化症、心筋梗塞、虚血性脳卒中などのリスクを下げるという報告が沢山あります。しかし、メタ解析を行った結果ではチーズ摂取はこうした疾患リスクを下げる傾向ですが、必ずしも明確な有意差が出るとは限りません。その原因として交絡因子(結果に影響する可能性のある因子、例えば肥満なのかやせ型なのかは疾患リスクに影響します。経済力のある方とない方では食事の内容が異なり疾患リスクに影響する可能性があります。男性か女性かも影響します。)の影響を完全に排除できていない可能性が考えられます。こうした交絡因子の影響を排除する方法として「メンデルのランダム化解析(MR)」と呼ばれる方法があります。私は初めて聞く言葉で、遺伝子情報を利用するらしいのですが具体的には分かりません。このMR法を用いて交絡因子の影響を排除すると表2に示した結果となり、チーズの摂取は多くの心疾患や認知症のリスクを低減させると言えます。

今もテレビで芸能人が自分はこんな食生活をしていて体調がよい、みたいなことを言っています。その芸能人には効果があっても、他の人にも通用するとは限りません。最新の科学的な情報に基づいて健全な食生活を送ることをお勧めします。

 


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