フロマGのチーズときどき食文化

チーズ造りの道具たちの仕事を見る 

2024年2月15日掲載

① 世界共通の形をしたミルクの輸送缶

世界にどれだけの種類のチーズがあるのか。それらのチーズを探ってみたい、などと若い頃は血気にはやっていたけれど、それは到底ムリだな!とすぐに気づく。そこで今回はチーズから少し離れて、これ等を造るユニークな道具を探ってみようと思う。さっそくだけれど写真①はなんでしょう、と問えばバカにするなと怒る人もいるだろうけれど、これは牛乳の輸送缶ですね。私は北海道の酪農家生まれだから、毎日、牛乳カンと呼んで使っていた。でも、この写真はフランス領のコルシカ島の山中で撮ったものだけれど、私が半世紀前に農場で使っていたものと変わらない。この缶はミルクの輸送と共に、ミルクを冷水で冷やして保存するという機能もあるのです。この形のものは、イタリアやスイスなどでも見かけたので、多分ヨーロッパ中で、あるいは世界中でこの形のミルクの輸送缶が使われているのではないだろうか。

写真②は北東フランスのヴォージュ山中で造られている農家造りのA.O.P.チーズ、マンステールの型入れ作業です。牛乳をレンネットで凝固させたカードを細かくカットし、それを「パソワール」という楕円形の器具でくみ上げ、型入れしている場面です。

② パソワールという道具で型入れをする奥さま職人

ここのチーズ職人は牧場の若奥さんですが、ヨーロッパでは古くからチーズ造りは女性の仕事という事になっているので、旦那様は外回りを担当。早朝から牛の世話をし、搾乳しそれを奥様が管理するチーズ工房に届けると、チーズ造りが始まる。この時は早朝から工房に張りついて写真を撮っていたけれど、旦那様は一度も工房には入ってこなかった。そして、チーズ職人の奥様は、型入れ作業が終わると我々取材陣にも朝食を食べさせてくれました。Merci Madame! その上、彼女は土曜日になるとヴォージュ山中から麓の村の市場に降りていって自作のチーズを売るのです。すごい働き者の若奥様でした。

写真③はパリ郊外のモーという村?の圏内で造られているブリ・ド・モーの型入れ作業です。職人が使っているのはペル・ア・ブリ(Pelle à Brie)という、水抜きの小さな孔が無数に開いた金属製の道具で、凝固した牛乳のカードを薄く削ぎ取ってチーズの型枠に入れていく。

③ むずかしそうなブリの型入れ作業

このチーズのカードの型入れはちょっと複雑。牛乳を大きなバケツのような容器で凝固させ、このバケツ2個をワンセットとし、一方のバケツのカードには縦に大まかな切れ目をいれる。そして、この2個のバケツのカードを交互にペル・ア・ブリで薄く削ぎ取るようにして型入れしていく。とても難しそうな作業だけれど、ソフト系の白カビチーズの中で、最も大型(直径36~37cm:教本より)のこのチーズは技術革新が進む中で今もカードの型入れは昔ながらの道具を使った手作業のようです。

④ バノンの型入れ作業は優雅です。

写真④は南フランスの小さくて可愛らしいチーズ、バノンの型入れをしている場面です。ポリバケツで凝固させた山羊乳を、柄の長いオタマ(ルーシュ:Louche)で掬い取ってプラスティックの型に入れていくのだけれど、チーズ仕上がりは100g前後なので、均等にカードを入れるのはとても難しそう!と、心配性の私は内心冷やひやでしたが、同行の女史たちは「かわい~!」などと、無心に騒いでいた。この後、熟成させたこのチーズは乾燥させた栗の葉に包んで出来上がり。この作業はオバサン達がやっていました。

⑤ バケツを使って型入れする北フランスのチーズ

写真⑤の情景はいかがでしょう。繊細な作業が必要なチーズ造りの場面にバケツの登場です。バノンのような繊細な技術は全くいらないのでしょうか。これは北フランスで作られている四角形チーズ、マロワール(Maroilles)の型入れ作業です。この場面でバケツが出てくるのには驚きでした。

一口にチーズといっても、この様にそれぞれ特有の道具や異なる製法を駆使して個性的なチーズが作られているのです。

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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