世界のチーズぶらり旅

小さな島の大きな山羊乳のチーズ

2024年1月1日掲載

カナリア諸島といえば名前だけは知っているという人は多いが、どこにあるかを知る人は少ない。この地を有名にしたのは、この島々に生息していた小さな小鳥たちなのである。
現在はスペインの自治州だが本国のあるイベリア半島からは1000km以上離れた北アフリカの西方200kmの海上にあり、7個の小さな島々が身を寄せ合うようにして大西洋に浮かんでいる。日本ではこれ等の島々をカナリア諸島と呼んでいるけれど、訪れる日本人は少ない。なのに、この島の名を知る人が多いのは、これ等の島々を原産とするカナリアという小鳥を飼育する事が日本でも流行ったからであろう。
小鳥の飼育などに関心のない筆者はこれらの島々がどこにあるかなど全く関心がなかった。

① カナリア諸島のシンボルは犬

そんなある日、カナリア諸島のチーズを見に行こうといった人がいた。私はびっくりし、あわててこの島の事を調べ始めるが、資料はまことに少なかった。そんな中で、この島の事を真先に覚えたのは、これ等の島々はすべてが火山島で、名前のカナリア(canaria)の語源はラテン語の「犬(Cani)」を指す言葉からきているという事だった。そして、このカナリア州のマークには2匹の犬がえがかれているのである。どうです?ガックリ来ましたか。

② 荒野に作られた山羊の放牧場

余計な事を書いてしまったけれど、実はこれらの島々では、見た事もない大きな山羊乳チーズが大量に生産されているという情報を得て、まずは諸島の中心にある州都の(この諸島には州都が2島ある)グラン・カナリア島に降り立ったのである。この島はホタテ貝の形をした名前の割には小さい火山島だが、海岸線には緑が多く別荘が立ち並んでいた。
この島の中心地で二人の若い美女が作る山羊乳チーズの話は以前
「コロンブスゆかりの島のチーズを訪ねて」2022年5月)紹介したので、ここでは触れないが、今回は7個の島の中で2番目に大きいテネリフェという島のチーズを見てみよう。

③ 独自に進化したカナリアの山羊達

カナリア諸島は、幅200km、東西に500kmの間に7個の島が並んでいるけれど、他の島への移動はもっぱら中型の飛行機である。2番目に大きなテネリフェ島は全体が乾燥していて人家は少なく島全体がまるで荒野である。
だが、そんな島に無数の山羊が放牧されていたのである。そして島の中ほどには立派な山羊の博物館まであったので、入ってみると入場者は我々だけであった。周りに草木がほとんどない荒涼とした道路をしばらく走ると、広大な牧場の中に近代的なチーズ工房があった。

④ カナリアの山羊乳チーズは大型

さっそく見学させてもらうと製造室では女性が一人で黙々とチーズを作っていた。これまで何度かこの島々で造られるチーズを見てきたが、チーズの形と大きさがほとんど同じなのである。
山羊乳チーズ(シェーヴル)といえば、フランス産の変わった形の小さなチーズを想像するが、この島々で山羊乳から造られるチーズは、牛乳から造られるセミ・ハード系のチーズに負けない形と大きさなのである。

⑤ 一人でチーズを作る女性の技術者

州都があるグラン・カナリア島にはヨーロッパ人の別荘がたくさんあって、商店のチーズ売場には、フランスを始めとするヨーロッパ各国のチーズもたくさん並んでいた。これには地元のチーズも負けてはいられないようで、島のチーズ工房の設備はどこも近代的で新しく清潔であった。そしてフランスのシェーヴルと称する山羊乳チーズは形の変わった小型のチーズが多いけれど、カナリアの山羊乳チーズは4~5kgはありそうな円盤型のシンプルで堂々とした立派なチーズなのである。

 


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©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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