乳科学 マルド博士のミルク語り

乳製品は喉頭がんのリスクを下げる

2023年11月20日掲載

乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)を定期的に食べていると様々な健康メリットがあることは皆様もよくご存じですね。具体的には、肥満リスク低下、糖尿病や高血圧など生活習慣病リスク低下、骨密度の維持、虫歯リスク低下などが認められています。がんに関しては多くの論文が報告されていますが、結果がまちまちで一定の結論に至っていません。また、最近では乳製品を摂取していると脳機能の衰えを防ぐことも示され、今後多くの論文が発表されることが期待されます。

様々な結果が多数報告されている場合、メタ解析という手法を用いて効果があるのかないのかを判断します。メタ解析とは様々な報告のうち、実験が世界的に認められる方法で行われており、その結果も世界的に認められている方法で解析されている報告を抽出し、それらの結果を集めて再解析を行う方法です。被験者数が多くなり、人種や食習慣が異なる被験者でのデータも含まれることになります。それ故に、解析精度が飛躍的に上がります。最近、喉頭がんと乳製品の関係に関するメタ解析の結果が報告されました(Rodriguez-Archilla & Gomez-Fernandez, J. Dent. Res. Dent. Clin. Dent. Prospects, 2023, 17(1): 1-7)

喉頭がんは男性では8番目に患者が多いがんで、坂本龍一さん、つんくさん、村野武範さんなど有名人も咽頭がんにより声帯を失ったり、お亡くなりになったりしたことはご存じのことと思います。咽頭がんは、喫煙、飲酒、ビンロウジ(アレカヤシの種子)、遺伝、ヒトパピローマウィルス(HPV、子宮頸がんの原因ウィルス)感染、口腔不衛生と慢性的口腔外傷、食事などの要因が関係しているといわれています。食事では茶、コーヒー、果物、野菜、肉などが原因食品として知られていますが、乳製品についてはよく分かっていません。

そこで、文献検索でヒットした論文のうち重複しているものを除いた残り146件を抽出し、目的に適合する論文21件(1977~2021年)を精査しました。論文の国別ではインド、イタリア、ウルグアイ、日本、アメリカ、スイス、キューバ、ギリシャ、ポーランド、スペイン、ブラジル、中国でした。
調査対象となった乳製品は、牛乳21件、チーズ14件、ヨーグルト8件、バター5件でした。牛乳、チーズ、およびヨーグルトでは喉頭がんのリスクを有意に下げました。一方、バターについては喉頭がんのリスクとは無関係でした(表1参照)

何故、乳製品にこのような効果が認められるのでしょうか。その理由は明確にはなっていません。ただ、筆者らは乳製品中に含まれる共役リノール酸の影響ではないかと推測しています。共役リノール酸(conjugated linoleic acid: CLA 反芻動物の胃中で生成する脂肪酸の一種であるリノール酸の異性体、すなわちリノール酸と同じ元素、同じ炭素数だが構造が異なるもの)には抗がん効果があることが知られています。表2に示すように牛肉や乳製品に多く含まれています。

しかし、共役リノール酸の抗がん効果により乳製品に喉頭がんリスクを低下させるのだとすれば、バターにも効果が認められてもよいのに有意な効果となっていません。恐らく、バターについては論文数が5件と少ないせいではないかと考えます。もっと、論文数が多くなれば精度が上がります。そうしたらバターにも・・・と考えます。

 


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