乳科学 マルド博士のミルク語り

ヨーグルトとチーズ

2023年9月20日掲載

ヨーグルトもチーズも乳酸菌を使ってカゼインを凝固させた乳製品なのですが、両者の違いを正しく言えますか?ヨーグルトは無脂乳固形8%以上で乳酸菌(または酵母)数が107個/mL以上となっています。一方、チーズは凝乳酵素および/または乳酸菌によってカゼインを凝固させ、ホエイ(の一部)を排除させたものです。

ギリシャヨーグルトの例

なので、ギリシャヨーグルトのように水分を低下させたものは、乳酸菌(または酵母)数が107個/mL以上で、無脂乳固形分が8%以上であれば、ヨーグルトであり、チーズでもあるわけです。ただ、水分中に乳酸菌の一部は逃げますし、ホエイには乳糖やたんぱく質も入っているので、成分測定しないとヨーグルトの規格に適合しない場合もありえます。

ヨーグルトとチーズでは通常生乳の殺菌条件が異なります。チーズでは皆様ご存じのとおり低温殺菌あるいは高温短時間殺菌(72℃、15秒間:HTST)ですが、ヨーグルトでは80℃以上で殺菌することが一般的です。ホエイたんぱく質を加熱変性させ、ホエイオフ(輸送中の振動によりホエイが分離した状態。品質的には何も問題はありませんが、しばしばお客様からクレームとなります)しない組織とするためです。さらに、原材料表示を見ると、『生乳100%』と書いてあるもの、『生乳、乳製品』となっているもの、『乳製品』と書いてあるものがあります。『乳製品』は主として脱脂粉乳が使われ、カード組織の向上と無脂乳固形分の確保に役だっています。

チーズと比べるとヨーグルトの方が健康的と考える方が多いようです。基本的にはどちらも同じような健康機能が知られていますが、ヨーグルトは乳酸菌(または酵母)の菌数が保証されているので、菌あるいは菌が産生する物質による効果が期待されるのに対し、熟成チーズでは熟成中にたんぱく質や脂肪が分解されて生成した成分による健康効果が期待されます。

トクホマーク(左)と「機能性表示食品」の表示(右)

しかし、一般消費者の中には、ヨーグルトの健康効果はどんなヨーグルトでも大して違わないと思っておられる方がいらっしゃいます。食べないよりは食べた方が健康的なのですが、本当はプロバイオティクス(生きて腸内に届き、腸内に定着して健康に有用な菌)を使ったヨーグルトがもっといいのです。プロバイオティクスと言われても分かりにくいと思いますが、「機能性表示食品」と容器に書いてあるものや、「特定保健用食品」と書いてあり、マークが付いているものがお勧めです。


メチニコフ(免疫における食細胞の働きでノーベル賞を受賞し、ヨーグルトによる長寿説を唱えた)がヨーグルトの乳酸菌を発見したのは1904(明治37)年のことです。それ以前でも乳を凝固させた酸乳は日本にもあったようですが、乳酸菌を意識した酸乳は日本では1911(明治44)年に愛光舎(東京市神田区三崎町、現水道橋駅近く)が最初のようですが正確ではないかもしれません。農商務省の統計に認められる1917(大正6)年のヨーグルト製造者トップ5を表に示しました。東京の生産量が多いのは当然ですが、名古屋や大分の生産量が次いでいます。第5位の製造者である角倉賀造(=角倉賀道、すみのくら よしみち)は愛光舎の創業者です。また、3位の大分畜産はヨーグルトのみならずチーズも製造しており、この時代「何故、大分?」という疑問が湧きます。いずれ調べてみたいと思います。

 

 


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