フロマGのチーズときどき食文化

チーズを生む道具の世界を探る③

2023年6月15日掲載

カードのカットと型入れ
前回もこのテーマに触れましたが、この作業には、チーズの品種や大きさによってそれぞれのやり方があるので、そのあたりを少し見てみましょう。

① レンネットで凝固したミルク

まず、原料乳をレンネットで凝固させたカード(凝乳)のカットの方法や大きさは、チーズの種類によって様々ですが、大型で長期熟成型のハード系のチーズの場合は、カードの水分を出来るだけ多く排出するために、いくつかの操作を行います。それには先ず、カードを細かくカットし表面積を大きくし、更にホエイの温度を上げてカード内の脱水をうながします。次にこのカードを集めて大きな塊にし、これを所定の大きさに切ってモールドに詰め、圧搾機でプレスしながら目的のチーズの形を作っていくのです。このカードの作り方には、チーズによって様々な方法がある。

② 近代工場ではカードのカットは自動です。

前号では、大型のチーズでよく使われているピアノ線を立てに張ったハープというカード・ナイフを紹介したけれど、ヨーロッパの近代的な工場では、このナイフをチーズ・バットの撹拌機に取り付け、自動的にカットする方法が一般化しているようです。しかし、スイスのように、アルパージュといわれる夏場の山岳地帯などの小規模な工房では、まだまだ古い形の製法が残っていて面白いのです。また、ポルトガルのある地方の小さな工房では、女性の職人が羊乳を固めたカードを、腕まくりした手でカットしていました。小型のソフト系のチーズの場合は、型入れ前にカードはカットせず、小さなオタマで掬って型入れすることも良く行われているけれど、制作するチーズの大きさや形、そして組織の密度など、それぞれのチーズによって、これ等の作業のやり方は千差万別なのです。

チーズの成形
さて、チーズは最後に形を作らなくてはなりません。大型のチーズであれば前述の通り、製造中にカードの水分を少なくして硬く仕上げ、それを型に入れて高圧でプレスし、水分を絞り出すとともに堅固な形を作っていきます。

③ バノンの型入れ

小型のソフト系のチーズの場合は、チーズの高さの何倍もある円筒形の型に、柔らかいカードを注ぎこみ、自重で排水をさせてチーズの形を作っていく。そして、カマンベールであれば表面に塩をし、白カビを吹き付けて熟成させます。この様にチーズは生き物であり、その形や大きさ、そしてその育て方よって様々な味わいのチーズになるのです。ヨーロッパの伝統的なチーズの大部分はその種類によって大きさと形は決められており、チーズを見ればそれと分かるようになっているけれど、現在のフランスではソフト系の小型のチーズの分野では、ユニークな形の新製品が次々に開発されていて、もう、我々の手には負えなくなっているようです。

チーズの加塩
料理の場合は「塩をする」といえば調理中の素材に一定量の食塩を混ぜ込むことを言いますが、しかし、チーズの場合は原料のミルクに塩をすることはなく、ミルクを凝固させ目的のチーズの形になった時に、塩水に浸したり表面から塩を擦り込んだりする方法が大部分なのです。

④ スプリンツの加塩

しかし、2千年も前からフランスの人里離れた山中で造られていたという、カンタルやライオル系のチーズ、そしてイギリスのチェダー・チーズは大きさや姿形がそっくりだけれど、製法も似ているのです。
一般のチーズは形を作った後に、塩水に浸したり、チーズの表面に塩を擦り込んだりするけれど、上記の2種類のチーズは脱水したカードに直接塩を混ぜ込で成型するのです。

⑤ 熟成中のフランス最古のチーズ、カンタル

この様に、カンタル系のチーズの発祥はどの資料も、2千年前としており、例によってローマ時代の博物学者プリニウスが登場し、このチーズの事に触れている。それに対してイングランドで造られていたカンタルに似ていたチーズに、チェダーの名が付けられたのは16世紀と、まだ新しいけれど、どの資料も姿形も製法も似ているカンタルとチェダーの関係性には沈黙しているのです。

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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