フロマGのチーズときどき食文化

チーズを生む道具の世界を探る②

2023年5月15日掲載

乳を凝固させるもの
この項は主題の道具とは少し異なるけれど、ここではチーズ造りには欠かせない副材料の事に触れておきます。少し難しい話になりますが、チーズ作るときにまず行う事はミルクの水分の一部を除去するという作業があります。そのためには、まず液体である乳を凝固させなくてはなりません。

1. 乾燥した子牛の胃袋からレンネットを抽出(1980年代に撮影)

乳を凝固させるためには以下の方法があります。①レンネット凝固、②酸凝固、③加熱凝固などです(『チーズを科学する』チーズプロフェッショナル協会:刊より)
この中で広く使われているのは①のレンネットという凝乳材による凝固法ですが、この凝乳材には動物性と植物性の物があります。これまで世界中で最も広く使われてきたのが動物性のレンネットで、これは牛など胃袋が4つある反芻動物の幼児の第4胃から抽出したものを使います。

2. 凝固剤に使われるアーティチョークの雄しべ(ポルトガルで)

そして、植物性のレンネットには、今ではあまり使われなくなったものにイチジクの樹液がある。紀元前8世紀頃のギリシャの詩人ホメロスの叙事詩『イリアス』にはイチジクの樹液がミルクをみるみる内に凝固させたという記述があるのです。しかし、現在ヨーロッパで使用されている植物性のレンネットといえば、アーティチョークの雄シベで、ポルトガルとスペインの西部ではこれを使ってヤギやヒツジの乳から中型の柔らかいチーズを作っています。

カードのカッティング
日本のチーズ造りの現場では、ミルクを凝乳酵素(レンネット)で凝固させたものをカード(Curd)と呼んでいますが、チーズ造りの最初の作業はまず、このカードのカッティングから始まります。

3. ハープと呼ばれるカード・ナイフ

使われる道具は「カード・ナイフ」といわれ、一般的には金属のワクにピアノ線を張ったものですが、これには様々な、大きさや形のものがあります。ハード系のチーズであればホエイの排出を早めるため、カードは細かくカットするけれど、ソフト系のチーズの場合は、凝固したカードをオタマのような道具で掬って直接脱水用のモールドに入れてチーズの形を作っていきます。しかし、これもチーズの種類や国によって様々で、ポルトガルの小さな工房では、女性が腕でカードをかき回しカッティングしている所もありました。いずれにしてもカードのカッティングの仕方は、でき上った時のチーズの大きさや硬さなどによって、バリエーションがあり使われる道具も様々なのです。

カードの脱水と成型
前項でも述べた通り、ソフト系のチーズはカードを大きくカットして形に入れ、自重で脱水と成型を行わせて柔らかい組織のチーズに仕上げますが、ハード系のチーズの場合は、カードを細かくカットし、ホエイの温度を上げていくと、カード粒は水分(ホエイ)放出しながら固く絞まってきます。

4. カードの塊からチーズの形を作る作業(ペコリーノ・ロマーノ)

この状態になったらカードを集めてブロック状にし、それぞれ決められた型と大きさのモールドに詰めプレスしチーズの形を作っていくのです。
ここで蛇足ながらホエイの処理について触れておきます。チーズ造りの時に大量に流れ出るホエイをどうするか。例えばパルミジャーノ・レッジャーノやグラナ・パダーノを作っている北イタリアではホエイを豚の餌として利用していますが、有名なパルマ・ハムの原料豚には、このチーズのホエイを与えるべしという決まりがあるというのです。ただし、イタリアに多い羊乳の場合は、レンネットでは凝固しない蛋白質が牛乳の10倍以上残るので、そのホエイに生乳を10%ほど加えて加熱凝固させリコッタを作っているのです。

5. ホエイから作られるリコッタ

 

 

 

 

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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