フロマGのチーズときどき食文化

カメラが探ったチーズ造りの現場(9)

2022年2月15日掲載

(9)熟 成①

 チーズの熟成に関しては専門外の筆者にとって、この項目は少し荷が重いでのですが、幸い手元に2016年にチーズプロフェッショナル協会が発行した『チーズを科学する』というテキストがあるので、この本を参考に書きます。ご存知のようにチーズにはフレッシュから長期熟成型まで幅広いタイプがあるのですが、その定義は厳密に決まっていないのでザックリと行きましょう。テキストによればチーズの熟成には熟成するチーズの成分、特に水分が大きく関与していて、一定の温度と湿度で熟成するならば、一般的にはカマンベールのように水分の多い柔らかいチーズは熟成期間が短く、ゴーダやパルミジャーノのような半硬質や硬質チーズでは長くなるとしています。とは言うもののチーズの熟成管理は極めて繊細な仕事で、例えば原料になるミルクは、季節によって成分や酵素の活性も異なるので、同じように作っても同じ製品にはなりません。この辺りがチーズ職人の技術というか、感性が問われる重要な部分でもあり、面白くもある仕事なのです。

①:羊乳製の小さなチーズ

 チーズの熟成条件を大雑把にいえば低温で多湿な環境が必要なのです。つまり、チーズは古代から湿度があり温度差が少ない洞窟や地下室などを利用して熟成や貯蔵を行ってきましたが、現在はそれらの環境を科学的な装置によって作り出し、その中でチーズは熟成されているのです。
 写真①は南フランスでよくみられるミニサイズの山羊乳のチーズの熟成庫です。この写真は成型したばかりのチーズをスノコの上に並べた物ですが、チーズの高さはせいぜい5cmほどでしょうか。やがてホエーが抜けて形がしっかりしてきたら、真ん中に楊枝を刺したりするのでしょう。南フランスでは同じようなチーズをよく見かけます。

②:白カビ系チーズの熟成庫

 写真②は白カビ系チーズの専用の熟成室の一部です。見学のため外部の者が熟成室に入る時は完全な防護服を着せられ、一般の人なかなか見ることができません。フランスなどの中堅のチーズ工房ではA.O.P.認証チーズだけを作っている所は少なく、地元の人達が消費する多種類のチーズをその何倍もの量を作っています。そうしないと工房はやって行けないのでしょう。従っていきなりこのような熟成庫に案内されてもチーズの見分けは全くつきません。

③:棚ごと反転するスプリンツの熟成装置

 写真③はチーズ界で1、2を争う硬さのスイスのチーズ、スプリンツ(Sbrinz)です。熟成庫には写真のようにチーズを置いたまま縦に回転できる棚があって、重いチーズを簡単に反転できるようになっていました。このチーズの大きさは直径40cm以上もあり表皮はピカピカに磨かれていて、調理するときには専用のカンナを使うほどハードに仕上げます。最後はチーズを別の棚に縦置きにして並べ合計16ヵ月間熟成させます。

④:球体に仕上げるミモレットの熟成

 写真④は日本でもお馴染みのチーズですが分かりますか。そう球形のミモレット(Mimolette)です。この写真は北フランスのチーズ工場で撮ったものだけれど、同じ日に撮った隣のベルギーの工場の熟成室の写真を見てびっくり。こちらにも同じように赤く着色した丸いチーズが写っていたのです。写真をよく見比べると、フランスの物は、写真④のようにチーズを白いプラスティックのリングに載せて棚板に並べている。これはチーズを球形に仕上げるための装置らしくミモレットと分かりました。直接熟成棚に載せている方が、円錐形に仕上げるベルギーのシメイ(Chimay)だったのです。この様にチーズの種類が多いのでいきなり発酵室でチーズを見分けるのはとても難しいのです。

⑤:熟成は廃線のトンネルで

 写真⑤はフランスのオーヴェルニュ地方のカンタル(Cantal)の熟成庫です。これは廃線になった鉄道のトンネルを利用した熟成庫ですが、中を見回しても特別な空調設備はなさそうでした。このチーズは2000年の古い歴史を持つというチーズなので、昔の自然の洞窟を利用していた時代に戻った心地がしているのかも知れません。それにしてもトンネルの長さは100m以上ありそうでした。

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
*禁無断転載