乳科学 マルド博士のミルク語り

続、植物性ミルク

2022年1月20日掲載

2021年11月20日の本コラムにて植物性ミルクについてご紹介しました。植物性ミルクを購入する理由は”健康的だから”が断トツです(河村『畜産の情報』7月 2021)
しかし、”植物性だから健康的”というのはナンセンスで、健康的かどうかは食生活全体で決まります。実際、スーパーで購入したアーモンドミルクの原材料表示によれば砂糖が最も多く、その他様々な添加物が使用されています(写真)
カルシウムを強化するためにリン酸カルシウムが添加されていますが、植物原料の場合にはカルシウムの吸収率は低く、乳製品 40%、魚 33%に対して野菜では19%しかありません
(上西、日本栄養食糧誌 51: 259-266, 1998)。たんぱく質についてもアミノ酸は十分含まれていても、必須アミノ酸の吸収・生体利用性を考慮したたんぱく質の評価法(DIAAS)で算出した評価では牛乳など動物性たんぱく質に比べ大豆たんぱく質以外の植物性たんぱく質は極めて低くなります(図1)
このように植物性ミルク単品では決して”健康的”ではありません。しかし、食事全体としての砂糖摂取量が適正範囲内であれば問題はありません。同様に、カルシウムの吸収率は低いのですが、十分量のカルシウム(1,000mg以上)を摂取していれば、吸収率が低くてもカルシウムをある程度は体内に取り込むことは可能です。但し、実際にはすこぶる困難ですが・・。そのため動物性食品を一切食べないビーガンの方では骨折リスクが有意に高くなっています
(Tong et al., BMC Med., 18: 353, 2020)。なので、食事全体の中で、植物性たんぱく質と動物性たんぱく質の両方をバランスよく摂ることが大切なのです。
先に引用した『畜産の情報』によれば、牛乳を飲まない人の理由として「環境への負荷が大きいから」という回答が16%もありました。土地と水の利用、エネルギー変換、温室効果ガス(GHG)排出量などは植物性食品の方が動物性食品より低く、環境への負荷が低い可能性があります。放牧方式では環境にやさしいとの見方もありますが、必ずしもそうとは言い切れず、放牧、舎飼いのどちらも環境に与える影響に大きな差はないようです
(三枝 北海道草地研究会報 37: 22-23, 2003)
しかし、ヒトが必要とする(消化され吸収される)必須アミノ酸当たりのGHG発生量を計算すると、動物性と植物性の差は小さくなり、牛乳は環境に負荷をもたらすけど、植物性たんぱく質との差は少ないと言えます(図2)
少し分かりにくいかもしれませんが、植物性たんぱく質はたんぱく質の質が低い、つまりDIAASが低いため、ヒトが必要とする必須アミノ酸を取り込むにはより多くの植物性たんぱく質を摂取しなければなりません。その量を確保するには環境負荷が高くなるのです。環境負荷に対しても、個々の食品について大小を論じるのではなく、食事全体や食習慣で考えることが大事だと考えます。
植物性ミルクは決して牛乳代替品にはなりえませんが、牛乳代替品というイメージや訴求を払拭し、消費者に正確な情報を伝えるのであれば、植物性飲料として市場に定着していくことは否定しません。植物性原料の長所を生かした商品開発を望んでいます。


「乳科学 マルド博士のミルク語り」は毎月20日に更新しています。

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