フロマGのチーズときどき食文化

カメラが探ったチーズ造りの現場(5)

2021年10月15日掲載

(5)脱水との成型(ソフト系チーズ)

液体である家畜のミルクを凝固、固体化して様々な形にして保存する、これがチーズなのですが、これは人類の数々の発明品の中では傑出したものと言えるでしょう。乳という貴重な液体を凝固させ食料とするため、人類はさまざまな方法を考え出してきました。まずは目的に合った形や大きさの型ワクを作り、ここに乳を固体化したカード(凝乳)を入れて脱水整形し、それぞれの目的にあった形を作る。これがチーズ製造の始まりです。これらの作業には決まった用語はないようなので、今回はとりあえず「脱水と成型」としておきますが、これ等の工程ではソフト系とハード系のチーズとでは道具や作業手順が違うので2度に分け、最初はソフト系のチーズの作業を見ていきましょう。

①:小さなルーシュを使って型入れ

ソフト系チーズの「脱水と成型」の古典的な作業は、凝固させたミルクをオタマのような形の道具を使って型に入れていくというのが基本ですが、この時凝固させたカードを型入れの前に大まかにカットする場合もあるけれど、小型のチーズではカットしない場合が多いのです。
写真①は南仏の小さなシェーヴル・チーズの型入れ作用ですが、この方法は小型のソフト系のチーズを作るための最も基本的なやり方です。大きなバケツで羊乳を凝固させたカードを、オタマ(Louche)で掬い取り、側面に脱水用の穴が開いたカップに均等に入れていく。型入れされたカードは、側面の小さな孔から水分(ホエイ)をどんどん放出し体積が減っていく。その間何度も反転しながら小さな円盤型のチーズの形を作っていくのです。このカップ状の水切り型の高さは15cmほどあるけれど、仕上がったチーズの直径は7cm、厚みは熟成後3.3cmほどの可愛らしいチーズになるのです。

②:ペル・ア・ブリで型入れ

写真②は前回のこのシリーズで紹介したブリ(Brie)のサーベラージュの後の型入れ作業です。前号でも書きましたが、大きなバケツ状の容器で凝固させた牛乳2個をセットとして、写真のようなペル(Pelle)という道具を使い型に入れていく。この時カードをサーベルで立てにカットした(サーベラージュ)ものとカットしないカードを交互に層になるように型に入れていくのです。これは大型だけれど厚さの無いソフト系のブリが熟成中などに型崩れをしないようにするための工夫なのです。そして、この大皿に取っ手を付けたような特殊な道具ですが、ブリで使われているものは特にペル・ア・ブリ(Pelle à Brie)呼んでいるようですが、フランスの別種のチーズ工房でもよく見かけました。

③:パソワールを使うマンステルの型入れ

写真③はフラン北東部のヴォージュ山中で造られている農家製マンステルの工房です。このチーズの場合は型入れの前にカードを荒くカットし、写真のようなパソワールと呼ぶ特殊な器具を使って型入れします。カットされたカードはホエイの抜けが早く筒状の型に入れられたカードはどんどん沈んでいく。型入れ後は状況を見ながら何度も反転を繰り返し直径15cm、厚さ4cmほどのチーズになるよう形をつくっていきます。この工房は若夫婦二人で運営しているけれど、ヨーロッパの古い伝統の通り男性は牛の世話などの外回りでチーズ造りは女性である奥さんが担当していました。

④:モッツァレッラはちぎって成型

最後はモッツァレッラですが、このチーズは変則的な形をしているけれど、作り方も他のチーズにない方法で作ります。まずはカードを発酵させ弾力が増してきたらシュレッダーで細断し平たい桶に入れ、そこに熱湯を注ぎカードを溶かす。溶けたら熱湯を捨ててよく練りあげ、それを写真ように二人が向かい合ってまだ熱いカードを素早く手でちぎって冷水に放していく。これがこのチーズの成型です。作業は素早いけれど見事に形と大きさがそろっています。職人のワザですね。この写真は南イタリアの工房で撮った水牛乳のモッツアレッラ(D.O.P.認証)の作業現場ですが、同工房では牛乳で作るモッツアレッラは回転する成型器(写真)を使って大きさの違う製品を大量に作っていました。職人の手でモッツァーレ(Mozzare=切り取る)する製品は人手とコストがかかるからでしょう。

⑤:回転させモッツァレッラを大量に成型する部品

 

 

 

 

 

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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