世界のチーズぶらり旅

屋台で売られるチーズたち

2021年6月1日掲載

最初のヨーロッパの旅はフランスの地方都市で一か月ほど過ごした時に始まる。ここで出会ったのがヨーロッパ特有の朝市であった。そこには公営の吹き抜けの建造物があり、その中には食品店を中心に小規模な店が詰め込まれていている。そして、その建物の前の広場などの空き地には、小さな縁台を並べてその上に野菜や果物、そしてチーズや肉製品などを並べた店が連なっている。そこで売られている商品は国により地方によって変化し、その品数の多様さには大いに興味をそそられたのである。以来ワインやチーズ探訪の旅などでヨーロッパの地方を回るとき宿泊地では早起きして朝市には必ず詣でる。

①:最初に出会ったチーズの露店売場

ミシュランのガイドブックには、地方都市や有名な町の頁には簡単な地図があり、そのエリアに市場があればそれを示すマークが載っているのでそれを頼りに市場巡りをするのである。
写真①はもう半世紀になろうか。初めてフランスの地方都市で出会った屋台には、この町の周辺で作られるチーズが並んでいた。私のチーズの旅はここから始まるのである。

②:作り手が自ら売るフェルミエ製のチーズ

②の写真は本格的にヨーロッパのチーズ巡りを始めた時の物である。フランス東部のヴォージュ山脈の中腹で牛を飼いチーズを作っているおばさんが土曜日になると、麓のマンステルの町の広場に降りてきて、屋台で数種類の自作のチーズを売る風景である。
この地方の主役はA.O.C.認証(当時)のマンステルなのだが、割高なので地元ではあまり売れないらしく、自作の名もないチーズやでき立てのフレッシュチーズなどを多く売っていた。

③:地元の名品ブリを屋台で売る

③の写真はEU統一直前の朝市の屋台でチーズを売っている風景である。パリの西に広がる広大なイル・ド・フランスの平原にはフランスきっての白カビチーズの名産地で、ブリ・ド・モーとブリ・ド・ムラン、そして小ぶりのクロミエはブリ3兄弟といわれたりするが、クロミエだけはA.O.P.を取得しておらず、ブリの工房を見学した限りでは、クロミエはブリの製造のサブとして作られているようであった。写真はパリから50kmほど東の平原の中にあるクロミエの町の朝市で撮ったものだが、ブリ3兄弟がしっかり並んでいるが、今では麦ワラを敷いた屋台などはもう見ることはできないだろう。

④:彫刻作品のようなチーズの陳列

イタリアの市場にもかなり詣でたが、イタリア人はフランス人より陳列に凝るようである。時々思わずカメラを向けてしまう名作?も多かった。写真④はイタリア南部のアドリア海沿いのバーリーという港町の市場で撮ったもの。この市場では魚介の陳列なども、まるで芸術作品のように凝ったものもあって随分楽しませてもらったが、このパルミジャーノの陳列の仕方は、まるで彫刻作品の様で思わず足を止めてシャッターを押してしまった。イタリア人は食品の陳列といえども創作意欲がわくようで、奇抜な名作や迷作が多かった。
これまでの、写真はEU統合の前後に撮ったものなので、朝市などの陳列にもまだ衛生上の意識が行き渡っていなかったのか、なかなか面白くて写真になる作品も多かった。だがEU統合後、衛生上の規制が厳しくなったのか遊びが無くなり、市場のチーズ売場も見るからに衛生的になってきたようである。
写真⑤をご覧あれ。いま朝市にはこのように、チーズ売場に車輪を付けたような専用のワゴン車が主流になってきたようである。これは北イタリアのトリノの市場で撮ったものだが、2両つながった大規模なチーズ販売車で、品揃えも大型店並みなのにはおどろかされた。時代はたゆまずに進んでいるのである。

⑤:露店市のチーズ売場も進化している。


 

 

 

 

 


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©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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