世界のチーズぶらり旅

多様なチーズを育てたジュラ山脈

2020年10月1日掲載

多様なチーズを育てたジュラ山脈

1.ジュラ山地の風景

フランスの東部、スイスとの国境あたりにジュラ山脈と呼ばれるアルプス造山運動によって生まれた山脈がある。全長は300km程度で、最も高いところで1700m位。山容は険しくもなく傾斜は緩やかでエピセアの林に覆われた尾根と緑の牧草地がパッチワークのように連なっている。このおだやかな山々がチーズの名品を育てた。フランス・チーズで最も生産量が多いコンテ(Comté)の故郷もこのジュラの山地なのである。このコンテというチーズについての話は「チーズ時々食文化」の8月15日版も参照の事。

2.豪快なコンテの陳列・フランスで

その他この山地ではモルビエ、ブルー・デ・ジェックス、モンドールなどのユニークなチーズが生まれた。教科書に出てくる「ジュラ紀」の名はこの山から採られた。グリュイエールの一種であるコンテは、フランス・チーズの生産量第1位で、A.O.P.チーズの26%を占めているという。この地方では14世紀頃に大型チーズについての記録があるというから、コンテの前身と思われるチーズは600年も前から作られていた事になる。現在のコンテは直径60cmで重さが40kg。一個を作るには、400ℓ前後のミルクが必要だという。しかし、平野の大牧場であれば可能だが、山中の零細な酪農家が多かったこの山中では、多くの乳牛を飼育する事はもとより、大型のチーズを作るのも難しい。そこで生まれたのがフリュイティエールという、特殊なシステムのチーズ工房である。

3.モンベリアード牛

ここでは決められたエリア内の酪農家の牛乳をのみを受け入れ、専属の職人がチーズを作る。ジュラ山地にはこうした工房が170ヵ所あり、約3,000戸の農家がそれぞれの組合に所属する工房に牛乳を供給している。コンテ組合のパンフレットによれば、コンテは作られる季節、地域、工房などにより、微妙に風味の異なったチーズができるという。まずは原料乳だが、モンベリアード牛とシメンタール牛の生乳のみとし、定められたエリアの酪農家から工房に原料乳が運ばれる。この様に原料乳の産地を厳しく規定しているのは、ジュラ山地の風土の多様性にあるようだ。コンテ組合によれば、170ヵ所のフリュイティエールがある場所には独自のテロワールがあり、それぞれ異なる植物が生育しているので、これらをチーズの風味に反映させるため地域性を重要視しているのだという。例えば、A.O.P.認定エリア内には576種の草花があり、それぞれのチーズ工房のエリア内には平均130種の草花が生育しているという。コンテはこの様に地域の特性を重視することで、多様性のある優れた品質のチーズを、競争の激しいチーズ市場に供給しているのである。

4.真ん中に線があるモルビエ

さて、大型チーズを作る場合集められた原料乳の量がぴったりとはいかず、カードが残る場合が多い。そこで、この余ったカードから別のチーズが生まれた。例えば真ん中に黒い線があるチーズだが、これは余ったカードを保存するときの虫よけのため、チーズ釜の底に付着したススをカードの表面に塗りつけて保存し、夕方のカードと合わせて作ったものだという。これは昔の話でこのチーズはモルビエという名でA.O.P.を取得している。
もう一つこの地方で冬場にひっそりと作られていたモンドールというチーズがある。今では日本でも大人気だが、このチーズは1970年代にやっとパリで知られるようになったという新顔だ。リステリアなどの問題があり日本に輸入されたのは1995年からである。
このほか、このジュラ地方ではブルー・デ・ジェックスという穏やかな風味のブルーチーズも作られている。この様に変化に富んだジュラ山地は、多くの個性的なチーズを生み出しているのである。

5.熟成中のブルー・デ・ジェックス








 


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©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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