乳科学 マルド博士のミルク語り

ビタミンDでコロナを撃退!?

2020年5月20日掲載

ビタミンDでコロナを撃退!?

ビタミンD(VD)はカルシウムの吸収を上げて骨密度を高くする働きのある脂溶性ビタミンです。食事摂取基準2020(検討委員会報告書、2019年12月)によれば、成人の摂取目安量は男女とも8.5μg/日(食事摂取基準2015では5.5μg/日)、耐容上限量(これ以上摂取すると健康に悪影響がでる可能性があるという上限)は100μg/日となっています。

VDは日光に当たると体内で合成されるので、日本人はあまり関心を持たないようです。しかし、日照時間が短い地域ではVD不足になる可能性があります。食事摂取基準2020によれば、12月の15時で何分間日光に当たれば5.5μgのVDが産生されるかを測定したところ、札幌では何と2,741.7分(約46時間)もかかります。つくば市では271.3分(4.5時間)、那覇では17分となっています。冬場、屋内で仕事をする方は体内で合成されるVDは目安量を下回っている可能性があるのです。ちなみに、インフルエンザが冬季に増えるのは日照時間が少なく、体内合成VDが低いからだという説もあります。

となると、食品から摂取するしかありません。残念ながら牛乳には極微量しか含まれていません。なので、欧米では牛乳にVDを添加しており、海外の論文には牛乳を飲めばVDを補給できると書いてあります。日本でもVDを配合した乳飲料は市販されていますが、普通牛乳にはVDは殆ど含まれていませんのでご注意ください。魚類には比較的沢山含まれています。サケ(1切れ80g)で25μg、イワシ丸干し(1尾30g)で15μgです。

さて、VDはカルシウムの吸収を高めるだけではありません。「VDがインフルエンザやコロナウィルスの感染と死亡リスクを低減する根拠」と題する論文が目に留まりました(Grant et al, Preprints doi:10.20944/preprints202003.0235.v2)

論文と書きましたが、正式には論文になる前のドキュメントです。一般的に研究成果を論文として科学雑誌に投稿すると、その分野に詳しい他の研究者2名が内容を精査し、実験の適性、データ解析の精度、論理展開の妥当性などを評価します。投稿者はこの審査結果に対応し、一部の実験をやり直したり、データを解析し直したりして再提出しなければなりません。そのような審査を経たものが“論文”として科学雑誌に掲載されます。今回私の目に留まったものはこのような審査を経る前のドキュメントです。

VD摂取がインフルエンザウィルスの感染予防に有効なことはすでに多くの研究者から報告されています。私たちを外敵から守る“城壁”(2020年4月20日 コラム参照)は上皮細胞という細胞で覆われています。この上皮細胞は様々な抗菌ペプチドを産生します。これらはインフルエンザウィルスの外側を覆っている膜を破壊しウィルスを不活性化します。体内のVDが増えると抗菌ペプチドの産生量も増え、その結果ウィルスの感染を抑え、症状を軽減すると報告されています(図参照)
しかし、疑問もあります。まず、VDがインフルエンザウィルスに有効だとしても、コロナにも有効なのでしょうか。理屈の上ではこれら抗菌ペプチドはコロナウィルスも撃退できるハズですが、新型のコロナウィルスを撃退できるのか確たる証拠はありません。次に、インフルエンザウィルスの場合はVDの有効摂取量について様々な数値、具体的には5,000~20,000IU/日
(IUは効力を示す単位で物質毎に異なります。VDの場合はIU × 0.025で有効量μgに換算できます)となっています。すなわち、125 – 500μg/日のVDを摂取しなければならないことになります。しかし、VDを100μg摂取するには通常の食品のみでは難しいと思われます。サケを毎日8切れ食べられますか? なので、サプリメントを併用する必要があります。しかし、上記したように日本の食事摂取基準では摂取上限が100μg/日ですので有効量には足りません。日本人は魚を日常的に食べていますのでその点を考慮しても125μg/日を摂取するのが関の山でしょう。こんな量でコロナを撃退できるのでしょうか?なお、VDは脂溶性なので水で飲むより牛乳やチーズとともに摂取した方が効果的と考えられます。
さて、あなたはVDのサプリメントを飲んでみますか?信じるか信じないかはあなた次第です。