フロマ爺のチーズちょっといい話

伯爵婦人のダイエット食

2011年1月4日掲載

日本人は何でも刺身で食べたがるのを見て、あちらの人は「気持ちわるーい」といいます。魚介類ならまだしも、牛肉、牛レバー、馬肉、鹿肉、とり肉なども「生」で食べるのです。昔々は、獣肉などは禁断の食材で、「生」はおろか、食べてはいけないものだったのですね。しかし、病人が精をつけるために食べるのを「薬食い」といって見のがされていました。でも美味しいものはおいしい。獣肉が手に入ると、女房子供を里に帰して、男共はひっそりと集まって、薬食いを楽しんだ。

そんな様子が江戸川柳に多く詠まれています。だから今でも、馬肉はサクラ、猪はボタン、などと隠語を使うのです。

そんなわけで、イタリア生まれのカルパッチョなる生肉料理が日本へ入ってきたときも何の抵抗も無く、受け入れられたのです。でも、肉食の国ヨーロッパを見渡しても、有名な生肉料理はタルタルステーキくらいしか思い浮かびませんね。だから、この料理はあちらでもセンセーションを巻き起こしたのです。

レッジョ・エミリアの大衆食堂のカルパッチョ

ヴェネチアに今も有名なハリーズ・バーというレストランがあります。

1950年のある日、この店の常連客である、美しい伯爵婦人が主人のジュゼッペ・チプリアーニに「調理した肉はいっさいダメと医者からいわれていますの。」と訴えた。主人はとっさに牛の赤身を薄切りにし、マヨネーズを網の目のようにかけて出すと、伯爵婦人は喜んで料理名をたずねました。機転の利くチプリアーニ氏は、赤の色使いが美しいヴェネチア出身の画家ヴィットーレ・カルパッチョの展覧会で、感激したばかりなので、「ビーフ・カルパッチョでございます。」と答えた。

最初はこの料理にはチーズが入っていなかったのですが、やがて昔からピエモンテにあったアルバ風の生肉サラダと結びつき、パルミジャーノ・レッジャーノとルッコラをのせるという現在のスタンダードが出来上がり、世界を制覇することになるのです。